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ドイツ騎士修道会資料集 背景資料 中東十字軍

目次
 参考文献
 参考論文
 未読資料

注.
関連記述のみ紹介(紹介というよりは感想文)。
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参考文献

  1. 阿部謹也著 ドイツ中世後期の世界 未来社 1974年 ¥5800
     35から92頁にドイツ騎士団の地中海での活動や、地中海の所領、思想的な背景等が記述されている。ドイツ騎士団は第3次十字軍時の1190年に結成され、フリードリヒ2世の十字軍直後の1230年から活動の舞台をプロイセンへ移し始めている。だが、中東から完全に撤退することはなく、細々と活動を続けていたらしい。フリードリヒ2世と当時のドイツ騎士団長ザルツァとの関係をを記した部分が最も多い。ザルツァはドイツ騎士団の活躍の舞台を中東からプロシアへ移した張本人だが、本当は中東での活動を中心に置きたかったようだ。ドイツ騎士団を中心に見た十字軍といったところ。

  2. 石井美樹子著 イギリス王妃達の物語 朝日新聞社 1997年 ¥2500
     98から117に第2と3次十字軍に関わったエレアノールの、118から131には第3次十字軍を主導した獅子心王リチャードの后ベランガリアの簡単な伝記がある。著者が関連する場所へ行った時の話や、登場人物に対する感想等が散りばめられており、伝記と言うよりちょっとした感想文といった感じすらある。彼女達の生涯を知る概説書としてもそれなりに使える。

  3. 泉周雄著 私のヨーロッパ物語 博文館新社 1997年 ¥2500
     医者が書いた歴史読本といったところだろうか。十字軍の記述は各所に点在している。まず、66頁で簡単な説明がなされ、各国史のドイツの74頁、フランスの99から101頁、イギリスの137頁で簡単に触れられている。

  4. 伊藤進著 怪物のルネサンス 河出書房新社 1998年 ¥3500
     96から130頁に十字軍の希望の一つだった「プレスター・ジョン」の伝説の解説がある。プレスター・ジョンの伝説は完全な空想ではなく、1141年にサマルカンド近郊でイスラーム軍がカラ・キタイに敗退したという話が、歪められて伝えられたとする説が紹介されている。そして、プレスター・ジョン伝説を決定的にした「プレスター・ジョンからの手紙」の起源とその影響が解説されている。この手紙のオリジナルは12世紀中頃にフリードリヒ1世の周辺で作成されたのではないかとする説があるくらいで、はっきりとはしていない。しかし、その後、様々な言語や種類の加筆修正写本が世間に流布し、この伝説は一層広く広がり、後世に影響を与えたということらしい。十字軍にそれなりの影響を及ぼした「プレスター・ジョン」の伝説を知るうえで有用な本である。

  5. 伊藤政之助著 戦争史 西洋中世編 戦争史刊行会 1938年 ¥10
     634から711頁に第1次十字軍から中東の最後の十字軍国家アッコンの陥落迄が物語風に記述されている。603から611頁付近にもドイツ皇帝と関わる形で僅かばかり記述がある。但し、この本の記述は古く、情報の多くも他の文献から導くことが可能である。戦前の十字軍の認識がいかな物であったかを知る上で使える本である。

  6. 井上浩一著 ビザンツ皇妃列伝 筑摩書房 1996年 ¥2400
     161から189頁に第一次十字軍の原因となった救援要請を行ったアレクシウス一世の皇妃エイレーネー・ドゥーカイナーの伝記がある。この皇帝、十字軍関係の書籍を見る限りだと、余り軍事方面に秀でた皇帝に見えないけど実際は武道派の戦う皇帝だったそうだ。この皇妃は余り政治に口を出す人でなく、最後の皇位継承問題以外にはこれといった政治的活動はしなかったらしい。十字軍に関する記述はまったく見られない。191から216頁にフランス王ルイ九世の娘で、アレクシウス二世の皇妃になったアニュエス=アンナの伝記がある。この頃のビザンツ帝国は政争に明け暮れ、最後は第四次十字軍により首都コンスタンティノープルを奪われてしまう。アンナも政争に巻き込まれ、旦那は殺され、再婚相手旦那を殺した新皇帝、その皇帝も再び殺されてしまう。アンナはこの後、とある貴族と内縁の関係になり、第四次十字軍を向かえたらしい。この貴族は第四次十字軍に極めて協力的な人物だった。相方がフランス王家の人だったというのも原因の一端ではないかと著者は見ている。

  7. 大原與一郎著 エジプト・マムルーク王朝 近藤出版社 1976年 ¥1800
     9から78頁に1250年に成立し、後期十字軍に対したバハリー・マムルーク朝についての記述がある。最初はシャジャルからクトズ迄のバハリー・マムルーク朝の成立に付いて、内部抗争とシリアのアイユーブ朝との闘争を中心に記述されている。その後は、蒙古、十字軍、ヌビアとの闘争を中心にした章が並んでいる。十字軍との闘争は37から51頁にあり、1250年のルイ9世のアッカ入城から1370年のキプロス王国との講和迄が記述されている。他の記述と合わせてみると、マムルーク朝にとって十字軍との戦争はおまけであり、メインはシリアへの進出を狙うイル汗国との闘争だった事が読みとれる。各々の章について時間の流れに沿って戦いを中心に物語風に記述されており、読み易い。

  8. 佐藤次高著 世界の歴史8 イスラーム世界の興隆 中央公論社 1997年 ¥2500
     251から314頁に十字軍到来時のイスラーム側の人物に焦点を合わせて概説がある。扱われている人物は主にアイユーブ朝のサラディン、マムルーク朝のシャジャル、バイバルスといったところである。特に、サラディンの記述が多い。マムルーク朝は聖王ルイの十字軍とそれに続くモンゴルの到来が主になっている。商人の活動等の社会背景の解説も幾らかあり、原典からの引用もある。イスラーム側から見た十字軍の概説といったところ。

  9. 高橋正男著 イェルサレム 文藝春秋 1996年 ¥2400
     263から299頁にエルサレムを中心にした十字軍の記述がある。第一次十字軍の過程と背景が解説されている。特にエルサレム攻略戦の記述が細かい。続いて十字軍全体の概説が入り、サラディンによるエルサレム攻略が、エルサレムを守備していた十字軍士バリアンとのやりとりを中心に記述されている。十字軍当時とエルサレムの関わりを知るのに都合がいよい。

  10. 立山良司著 エルサレム 新潮社 1993年 ¥1000
     46から60頁にエルサレムがキリスト、イスラーム、ユダヤ教にとり、なぜ聖地なのかが歴史的に解説されている。64から72頁に十字軍当時のエルサレムの描写がある。特に、エルサレム占領当初の虐殺については、ティール司教の言葉を引用して説明を加えている。各所に各々の項目に関わる建物の説明がある。

  11. 橋口倫介 西洋中世のキリスト教と社会 刀水書房 1983年
    210から227頁に聖王ルイが十字軍を行った心理的な動機を検討した「聖ルイの十字軍」がある。従来は十字軍の愚考が1つの汚点となった名君として評価されていた。同時に初期の十字軍精神の復興者としても評価されてきた。十字軍行きがルイの行動の矛盾として見られていたと言う所だろうか。この論文ではルイの日常や人格からすれば十字軍は当然のこととしてルイには捉えられていたと見ている。良くも悪くも当時のよきキリスト教君主であったと言う所だろう。聖王ルイの十字軍の概説的もある。

  12. 三橋富治男著 トルコの歴史 近藤出版 1990年 ¥3800
     29から86頁に11から14世紀にアナトリアを支配していたルーム・セルジューク朝の概史と、社会や国政、文化に纏わる解説がある。概史には第一次十字軍との戦いや、その後の十字軍国家とのやりとり等が記されている。第一次十字軍通過後は素早く国を建て直すことができたが、第三次十字軍当時には国が分裂していてまともな交戦ができなかったらしい。十字軍当時のアナトリアでの出来事や状態を知るのに有用だ。残念なのは第二次十字軍に纏わる記述がない。

  13. 宮城美穂著 ビザンツ帝国の対十字軍政策−−ニケタス・コニアテスの「歴史」より−− 西洋史学213 2004年
     12世紀のビザンツの歴史家ニケタスの歴史書において、ビザンツ帝国とイスラーム勢力の長サラディンとの間に結ばれた同盟の前後の記述の検討を通してビザンツ帝国の対十字軍政策を検討した論文。ニケタスの歴史書にはサラディンとの同盟に関する記述がなく、第三次十字軍を率いたフリードリヒ一世を賛美する記述が多くある。ここからこの同盟の存在そのものを否定する説も現れたようだ。ニケタスの記述はビザンツ帝国がこれまで採ってきた政策と関係があると、この論文では見ている。十字軍の軍事力を利用して帝国の東方地帯の安全を確保するという方針である。その意味で、サラディンとの同盟はこの路線からの逸脱だった。しかし、フリードリヒ一世によるフィリッポポリスなどの帝国の主要都市占領に伴い、帝国とフリードリヒの間で結ばれた条約により、サラディンとの条約は事実上破棄された形になり、従来の路線への回帰がはかられる。ニケタスは帝国の従来の路線の支持者であったであろう点が、ニケタスが皇帝を批判した記述から指摘されている。故に、ニケタスはサラディンとの同盟を黙殺し、帝国が十字軍を利用するとした政策を推進していた点を強調する方向で歴史を記述した、と言うところだろう。ビザンツの対十字軍政策に関する一史料の検討と言ったところだ。

  14. 森護著 英国王室史話 大修館書店 1986年 ¥3800
     60から72頁にリチャード獅子心王の伝記がある。基本的に何をした何をしたの伝記だが、こぼれ話としてリチャードが借金棒引き策として使用した玉璽の変更作戦が載っている。玉璽を変更して、以前の玉璽で作られた証書は全て無効だ、と宣言したのである。著者のリチャードの評価はよくない。

  15. 森護著 英国王妃物語 河出書房新社 1994年 ¥680
     14から30頁にエレアノールの簡単な伝記がある。系統と主要なエピソードで構成されているが、アンティオキア公がフランス軍を攻撃したとか、幾つか妙な点がある。ちょっとして読み物と言うところ。  

  16. 森本哲郎著 戦争と人間 文藝春秋 1988年 ¥1600
     83から94頁で十字軍について論じている。十字軍を西欧の富と人の増大に伴い、その余波が東へ向かって吹き出してきたものといった解説がなされている。簡単に言うと、ある程度富を貯えた人々が新なる富を求めて東へ攻め込んできたといったところ。十字軍の一つの要素を解説している。但し、これが全てではない、と思っていた方がよいだろう。

  17. 山辺規子著 ノルマン騎士の地中海興亡史 白水社 1996年 ¥−
     211から261頁に初代シチリア公ロベール・ギスカールの息子で初代アンティオキア公ボエモンを中心とした第1次十字軍の出発からボエモンが死ぬ迄の記述がある。168から210頁にはのボエモンの十字軍出発からホーエンシュタウフェン家のフリードリヒ2世の即位によるノルマン朝の滅亡迄が記述されていて、その中で十字軍との関わりが、例えば1174年にサラディンの動きに対応してエジプトへ3万の遠征軍を送ったとか、第3次十字軍の集結地としてシチリアが使われたとか、記述されている。物語風の記述で読み易い。

  18. アルノ・ボルスト著 永野藤夫/井本しょう二/青木誠之訳 西洋の巷にて(上下) 平凡社 1986年 ¥5800(合計金額)
     様々な事件から中世世界を解説した本で、各章では解説に当たりまず原典史料を示すところから始めており、原典史料集としての価値もある。十字軍に纏わる部分は全部で6章ある。上巻では、234頁から239頁に聖王こと、ルイ9世の服装についての記述がある。303から309頁にヨハネ騎士団の会則とその解説がある。336から342頁にはフリードリヒ2世の「シチリア法典」の序文とフリードリヒの法に対する姿勢が解説される。374から381頁にクレルモン公会議で行われた第1回十字軍の勧誘演説の修道士ロベールによる記録と背景が解説されている。下巻では、319から324頁にユダヤ教からキリスト教へ改宗したユダヤ人の話と解説があり、十字軍に纏わる重要な点は十字軍と共に起こったユダヤ人迫害の記述である。339から345頁に第4次十字軍のコンスタンティノープル攻略に参加した修道院長マルタンの記録がある。これらの原典史料の訳は貴重である。

  19. アンリ・ピレンヌ著 佐々木克巳訳 中世都市 創文社 1970年 ¥800
     77と78頁に地中海商業の活性化に十字軍が果たした役割の評価がなされている。ピレンヌ氏によると西欧商業の衰退原因はイスラームによる地中海の遮断である。十字軍はこの遮断を最終的に打ち破り、商業の活性化を即したというわけである。但し、十字軍は十字軍以前から始まっていた地中海での闘争の流れの一環らしい。確かに、十字軍以降のイタリアの商業の隆盛は目を見張る物がある。十字軍に対する一つの見方と言うところだろう。

  20. H.G.ウェルズ著 長谷部文雄/阿部知二訳 世界史概観 上下 岩波書店 1966年 ¥1100(上下巻で)
     上巻の214から223頁に叙任権闘争と関わらせる形で十字軍の記述がある。十字軍に対する評価は民主主義の発芽の現れ、と肯定的である。十字軍が盛んだった12から13世紀を教皇権が最も力を持った時代と捉えている。下巻の1から9頁に教皇と諸侯との関係を記した章があり、主にフリードリヒ2世を中心とした記述がある。9から13頁にモンゴルの記述があり、十字軍との関わりも僅かに記述されている。十字軍に纏わる記述の大半は教皇との関係を中心にしている。

  21. ギボン著 中野好之訳 ローマ帝国衰亡史10 筑摩書房 1993年 ¥−
     77から242頁に十字軍に関する記述がある。ローマ帝国衰亡史だから、当然東ローマ帝国こと、ビザンチン帝国の記述が主だろうと思うが、西欧の十字軍の記述が主である。西欧十字軍の指導者達をやたらと称賛し、ビザンチン皇帝をこき下ろしている。物語的な記述なので、読み物として楽しめる。第一次十字軍と、さすがローマ帝国の行く末を記述した本らしく第四次十字軍の記述が多い。一八世紀の欧州の知識人として当然ながら十字軍に対する評価は、極めて肯定的である。彼の評価では、十字軍により中層の領主層の力が弱り、下層民衆の自由が広がったと言うことである。

  22. ジュゼッペ・クアトリーリオ著 真野義人/箕浦万里子訳 シチリアの千年 新評論 1997年 ¥4800
     シチリアは十字軍との関わり深い地なのだが、この本では余り十字軍の記述が出てこない。フリードリヒ2世の時代の記述のところにようやく出てくる。36から50頁のフリードリヒ2世の項で、フリードリヒ2世と教皇とのやりとりが中心になっている。フリードリヒ2世の十字軍の顛末も40から42頁にある。全般的に好意的な感じである。

  23. ジョルジョ・デュビー著 篠田勝英訳 中世の結婚 新評論 1984年 ¥2800
     中世の性に対する意識を結婚から読み解いた本。数多くの例があり、その中に十字軍に関わった人々の話も含まれている。221から226頁に初代エルサレム王ボードワンの母、聖イードがあり、228から261頁に第一次十字軍を称賛する書、「フランク人を仲介する神の御業について」を記した修道士ギベール・ド・ノジャンがあり、304から316頁に第二次十字軍の一翼を担ったルイ七世の妻で、第三次十字軍を主導した獅子心王リチャードの母で自らも両十字軍に参加したエレアノールの簡単な伝記が記されている。結婚に纏わる話や、性に対する意識の話が主となっている。

  24. ジョルジュ・ミノワ著 大野朗子/菅原恵美子訳 老いの歴史 筑摩書房 1996年 ¥5700
     205から270頁の11−13世紀を扱った章の中に十字軍に関わった60才以上の老人達の記述が散在している。これを見ると、主に聖職者として関わった者が多いように見受けられる。修道騎士団たるテンプル騎士団等は老人ホームとの印象を受ける、との記述があるほどだ。最も多くのことが記されている人物はエレアノールで253から255頁迄に60代以降に行なった活動が記されている。

  25. ダン・バハト著 高橋正男訳 イェルサレムの歴史 東京書籍 1993年 ¥1800
     52から59頁に十字軍時代のエルサレムについての解説がある。最初に十字軍の手にエルサレムがいかに落ちたかが解説され、続いて様々な図を伴った形で町の状態や日常、建物の解説が行なわれている。53頁に当時のエルサレム全体の地図がある。

  26. フェルディナント・ザイプト著 永野藤夫/井本昭二/今田理枝訳 図解 中世の光と影 下 原書房 1996年 ¥3800
     347から364頁に十字軍開始時の十字軍思想、参加階層の広がり、ユダヤ人虐殺、その影響等々の十字軍の影響と背景といった感じの話がある。中東十字軍に限らず、異端、北方十字軍などにも話が及んでいる。383から399頁に王侯達の話があり、その中に十字軍に関わったエレアノール、獅子心王リチャード、フリードリヒ2世、フイリップ・オーギュスト等の話がある。455から457頁に従事軍事が通過する町々で行ったユダヤ人虐殺の話と背景が解説されている。

  27. ヘーゲル著 長谷川宏訳 歴史哲学講義 下 岩波書店 1994年 ¥670
    ヘーゲル著 武市建人訳 歴史哲学 下 岩波書店 1971年 ¥400

     最初の本では275から288頁に、2番目の本では99から114頁に十字軍についての記述がある。両書とも内容的にはそう変わりないが2番目の本の方が章分けが細かくなされているので読み易い。十字軍の精神的背景を論じており、歴史が論じられているわけではない。十字軍はキリスト教精神の最高の現れとして描かれ、十字軍を賛美する調子で語られている。十字軍の行った様々な行為は、最高の放縦と暴力の後に最高の後悔と反省が行われたとか、コンスタンティノープルの占領で聖地への往来が容易になったとか言う具合に、非難されている部分に対する弁護も行われている。十字軍により人々はこれまでの価値観に幻滅を味わい人間の主体性を絶対とする精神への移行を遂げるとされる。ヘーゲル哲学の基本は人間の精神的発達なので、ここからすると十字軍は精神が次の段階へ昇る契機となったと捉えている。あくまでこれは、ヘーゲル哲学の考え方で現在の歴史学に通用する話ではない。ヘーゲルは19世紀を代表する歴史家であり哲学者なので、この本は19世紀に十字軍がどのように捉えられていたかを知るのに使える。

  28. ランシマン著 和田廣訳 十字軍の歴史 河出書房新社 1989年 ¥2900
     ランシマンは十字軍の三巻本で有名な十字軍研究者であり、この本はその第一次十字軍の部分の要約版の邦訳である。十字軍前史たる、ビザンツとイスラーム勢力間の中東値域をめぐる闘争から第一次十字軍によるエルサレム占領までの範囲を扱っている。研究書と言うよりは読み物としてまとめられている。但し、この邦訳には問題が多くあるとの指摘もある。「八塚春児著 書評「ランシマン著 和田廣訳 十字軍の歴史」 京都大学史林73−1 1990年」を見る限りでは多くは誤訳と言うよりは不適正な訳語の割り当てと、不統一にあるようだ。邦語で西欧側から見た第一次十字軍史としては最も詳しい。

  29. ランケ著 鈴木成高/相原信作訳 世界史概要 岩波書店 1941年 ¥450
     132から139頁に十字軍の解説がある。最初の十字軍の成功を宗教的情熱等ではなく、イスラーム教国の分裂に見ている。その後、イスラーム教国が統一されると十字軍の戦果が著しく低下した点も指摘されている。そして、十字軍運動は教皇権の力を増大させ、ヨーロッパの一体感を育て、世界交通を盛んにしたと結論されている。19世紀のヨーロッパの歴史家らしく十字軍の評価は肯定的だが、最初の成功の原因とその後の失敗の原因を宗教的情熱ではなく、イスラーム勢力の分裂と統一に見ている点は当時の歴史家にしては目新しい。さすが、近代歴史学の父と言ったところだろうか。だが、今となっては19世紀の歴史観を見るのに使えるだけである。

  30. リチャード・バーバー著 田口孝夫訳 騎士道物語 原書房 1996年 ¥3200
     187から214頁に著者の意見を交えながらの十字軍開始からキュプロス島陥落迄の概説が行なわれている。第一次十字軍の記述に重点がおかれている。次に214から230頁でテンプル騎士団について創設から解散迄の記述が続く。ここではテンプル騎士団解散に重点が置かれている。230から248頁でヨハネ騎士団の成立から18世紀にナポレオンに降伏する迄が、ロードスとマルタの戦いに重点を置いた形で記述されている。十字軍全体を騎士を中心に概説したものとしてそれなりに使えると思える。

  31. レジーヌ・ペルヌー著 福本秀子訳 王妃アリエノール・ダキテーヌ パピルス 1996年 ¥3800
     エレアノールの周囲にいた人々の解説とその人々とエレアノールとの関係を中心に、様々な原典史料の引用を駆使して作られたエレアノールの伝記。周囲の人々の解説の中には当然ながら彼女の最初の夫で、第二次十字軍を主導したルイ七世や、息子で第三次十字軍を主導した獅子心王リチャードも解説されている。記述は物語風だが、エレアノールを中心にした概説書としても使える。

  32. D.H.ロレンス著 増田充訳 ロレンスのヨーロッパ史1 葦書房 1985年 ¥2500
     175から204頁に十字軍の記述がある。クレルモンの公会議から第1次十字軍終了迄の記述が主である。それ以降はざっと流しただけである。19世紀の知識人が十字軍をどう捉えていたかの一端を見せてくれる。十字軍を崇高な宗教的情熱に始まったとする、キリスト教賛美の思想である。キリスト教側の情熱が失せ、イスラーム側の情熱が高まり、十字軍は敗退したと言った感じである。当然ながらイスラームの記述はよいわけがない。物語風の記述で、結構読み易い。

  33. 青山吉信編 イギリス史1 山川出版社 1991年 ¥−
     イギリスの古代と中世の概史だが、国政の状態や経済情況の解説が主になっている。252から260頁に獅子心王リチャードの十字軍がイギリスに及ぼした経済的影響が顕在化したともいえるジョン王の時世の解説がある。リチャードの費やした軍費、彼の身の代金は莫大なもので、その費用負担がジョン王の時代の国民や家臣の離反の遠因となった。十字軍がイギリスに及ぼした経済的影響の解説といったところである。

  34. 井上浩一/栗生沢猛夫著 世界の歴史11 ビザンツとスラブ 中央公論社 1998年 ¥2524
      159から194頁に十字軍当時のビザンツ概史がある。第一次十字軍時のアレクシオス一世、第三次十字軍の一翼を担ったフリードリヒ一世と対立したマヌエル一世の解説があり、175頁から189頁で第四次十字軍のコンスタンティノープル占領からビザンツの奪還までが概説され、最後に数々の十字軍計画の挫折がある。ビザンツから見た十字軍史を概観できる。  

  35. 大類伸編 世界の戦史4 十字軍と騎士 人物往来社 1966年 ¥490
     83から182頁で十字軍の流れを戦いを中心に記している。最初の方で背景の解説もある。第1から第7迄の大規模な遠征軍、特に十字軍国家が成立した第1と、ビザンチン帝国を占領した第4の解説が多い。最後には後の影響等が論じられている。余り肯定的な評価はなされていない。子供十字軍や修道騎士団等の余談もある。十字軍の流れを知るのに実に有効な本である。

  36. 木村尚三郎編 世界の戦争5 中世と騎士の戦争 講談社 1985年 ¥1300
     68から114頁に十字軍の章がある。十字軍の概史というよりも、西欧の思想的な背景、騎士を中心とした馬社会の状態、騎士団の解説、少年十字軍や聖王ルイの身代金等、トピックス的な話が多い。十字軍に纏わるの社会的背景の一端を見るのに有効な書である。特に当時の馬事情を知るのによい。172から179頁の騎士の合戦法と合わせて読めば当時の軍事事情を理解する助けとなる。193頁に十字軍に纏わった地図がある。

  37. 佐藤次高/鈴木董編 都市の文明イスラーム 講談社 1993年 ¥650
     7世紀から16世紀辺り迄のイスラーム世界を解説した書。十字軍と重なる時期のイスラーム世界がどのような状態にあったかを知ることができる。148から152と160から176頁に十字軍に纏わる記述がある。イスラーム側から見て十字軍とはいかな物だったとか、十字軍国家との経済的理由による共存政策とか、十字軍後半の主要な相手となったマムルーク朝の国政とか、イスラーム側から見た解説がある。これによるとイスラーム世界では十字軍をそれほど大きな事件とは見ていなかったようだ。故にこの書の中でも十字軍は重きをなしていないが、当時のイスラーム世界を知る上では最も簡易な概説書として使える。

  38. 下中弘編 西洋史料集成 平凡社 1956年 ¥29000
     西洋史全体を扱う史料集で、直接的なものでは263頁にクレルモン公会議の十字軍決議の妙訳があり、264頁にレイモン・デジールの年代記からの第一次十字軍のエルサレム攻略の部分があり、他にもだいたい255から308頁内に関係する史料が散在している。

  39. 半田元夫/今野圀雄著 キリスト教史1 山川出版社 1977年 ¥1900
     キリスト教の歴史を様々な事件から綴った本で、十字軍に纏わる記述もあちこちにある。だいたい383から472頁あたりが十字軍期の話だが、前半は十字軍より叙任権闘争や異端派についての記述が主で十字軍の記述は少ない。第4次十字軍だけは特に419から425頁迄にコンスタンティノープル攻撃に至る迄の記述がある。428と429頁に1215年の公会議で決定された十字軍に纏わる条項の解説がある。基本的には第5次十字軍の計画である。13世紀後半に入っても幾度となく十字軍が計画されたが、大半がお流れになった件が述べられている。

  40. NHK取材班編 大モンゴル2 角川書店 1992年 ¥2800
     この巻の特集はプレスター・ジョンで、プレスター・ジョンの伝説についての記述や西欧とモンゴルの関係などについての記述に溢れている。モンゴルはプレスター・ジョンと呼ばれ待ち望まれ、しまいにはタルタル人と呼ばれて恐れられる結果となったが、その両時代に書かれた西欧の様々な年代記や手紙等の引用を通じて、西欧の見たモンゴルが語られる。プレスター・ジョン伝説以外にも、実際にモンゴル軍が中東の十字軍諸国家の近くまで現れ、エジプトのマムルーク朝と闘争を繰り返す辺りの話も記述されている。図版や写真が豊富にあり、文よりもそちらの方に目がいってしまう豪華な本である。

  41. ヨーロッパ中世史研究会編 西洋中世史料集 東京大学出版会 2000年 ¥3200
     94から379頁の範囲に十字軍当時の背景史料が多数ある。十字軍のは165から169の十字軍とビザンツ帝国の関係を記した第1次と4次十字軍の二つの史料と、216から218頁に十字軍勧誘演説がある。どれも抜粋で、全体像は分からない。参考史料集と言ったところだろう。

  42. M.D.ノウルズ編 上智大学中世思想研究所訳 キリスト教史3 平凡社 1996年 ¥1600
     370頁以降に教会と関わる形での十字軍の記述がちりばめられている。まとまった記述としては446から454頁に、教会が行った十字軍斡旋を中心とした十字軍と教会の関係の概史がある。473と474には十字軍関係の邦語の参考文献が紹介されている。教会と十字軍、特に教皇と十字軍の関係を大まかに掴むのに使えそうだ。

  43. パムレーニ・エルヴィン編 田代文雄/鹿島正裕訳 ハンガリー史1 恒文社 1980年 ¥4900
     72から101頁に十字軍当時のバルカンの情勢が記述されている。十字軍に直接関わる記述は74と75頁で、ヴェネツィアが第1次十字軍の支援に忙殺されている隙にハンガリーがヴェネツィアの領土をかすめ取った話や、83と84頁には第4次十字軍との関わりがある。十字軍がよく通過したハンガリー情勢を知るのにある程度使える。

  44. Edward Peters編 The First Crusade UNIVERSITY OF PENNSYLVANIA PRESS 1971年
     クレルモン公会議からエルサレム公会議にいたる第一次十字軍の各種事件を伝える各種年代記を事件毎に羅列している史料集。各項目はその項目に関する事件を伝える年代記数点の抜粋で構成されている。各項目は更に小さな項目で構成され、何か特定の事件に関する原史料を検索するのに便利である。しかし、その項目が扱う事件を伝える部分が全て掲載されているわけではない。主要な部分の抜粋で、切れ切れな形になっている。各年代記の抜粋は1から5頁程度。年代記だけでなく、公的な手紙が六点、特許状が七点収録されている。第一次十字軍の原史料集として極めて便利であるが、微細なことを調べるには物足りない感じである。

  45. Helen.J.Nicholson編 The Chronicle of The Third Crusade ASHGATE 1997年
     13世紀初め頃にエルサレム王国で書かれたと考えられている十字軍の記録の英訳で、この史料は第三次十字軍の主要史料の一つに数えられている。著述範囲は1189年のハッティンの戦いから英、仏王とドイツ皇帝が到着してアッコン攻城戦を攻略し、エルサレムへ向けて進撃を始める1190年11月迄である。写本には4種類あり、この翻訳は最も長い物を土台として他の写本の内容も折り込んで編集されているようだ。前半の解説に写本の状態や著者、作成年代などの解説がある。注釈による説明が多く、要所要所に地図などの図も用意されており、読み易い造りになっている。別バージョンの邦訳が「竹内正三編訳 無名第3十字軍記1−3 広島大学文学部紀要27−2,28−2,29−2 1967−1970年」にある。  

  46. Peters W.Edbury編 The Conquest of Jerusalem and the Third Crusade ASHGATE 1996年
     ハッティンの戦い前夜から獅子心王が去るまでのエルサレム王国に関わる第三次十字軍の史料集で、紙面の大半をエルサレム王国の公式年代記とも言えるギョーム・ド・ティールの年代記の継続版に割いている。ティールは第一次十字軍から12世紀中頃までを記録しているが、それ以降を記録した継続版が幾つか出ている。この本に掲載されているのは作者不明のリヨン写本の英訳である。事件の部分だけを取り出した妙訳ではなく、1184年から1197年迄の部分が全訳されている。後半四分の一は事件毎に史料の抜粋を集めた史料集である。事件はギーとエルサレムの王位継承権を持つエルサレム王の娘のシビーユ結婚、ギーの戴冠、ハッティンの戦いの前哨戦たるクレッソンの戦い、そしてハッティンの戦い、ハッティンの敗北の余波、アッコン攻城戦、聖地での獅子心王の活動と、7つの項目についての史料集がある。ティールの年代記継続版は第三次十字軍の基礎史料の一つであり、他にも主要な事件に関する手紙や他の年代記などの史料の抜粋などもあるので、この本は第三次十字軍を調べる上では極めて有用な史料集だと言えるだろう。

参考論文

  1. 草生久嗣著 ビザンツ史研究の道具箱 クリオ10,11 1997年
     ビザンツ史研究に必要な基本的な文献を網羅的に紹介している。全体は四部に分かれている。第一部が史料集など史料が掲載されている文献、第二部が史料を閲覧する為に必要な文献、例えば辞書とか史料集の一覧など、第三部は通史、第四部は研究動向紹介である。これから、ビザンツ史を本格的に始めようとする人や専門外の人がビザンツ史に触れなければならない時など、このような紹介は重宝する。ビザンツ史の通史としては邦訳もあるオストロゴルスキーのビザンツ帝国史がもっともよいようだ。

  2. 小杉天人著 第1回十字軍の諸侯たち 京都教育大学桃山歴史・地理32 1997年
     第一次十字軍に参加した諸侯を紹介した論文で、主要な諸侯の紹介、ビザンツ皇帝に対する対応、アンティオキィア攻防戦、エルサレム解放と一連の流れの中で解説を進めている。諸侯は参加動機も背景も大きく異なり、聖地での行動に統一性が見られないのは当然のことであると言った感じである。第一次十字軍諸侯ガイド的な文である。

  3. 櫻井康人著 前期エルサレム王国における国王戴冠と司教任命 西洋史学206 2002年
     12世紀のエルサレム王国における王権と教権の関係を検討した論文で、年代記等に現れる戴冠と上級聖職者の叙任の記述から検討を行っている。使われている年代記は主にギョーム・ド・ティールである。エルサレム王国は国王戴冠の儀式を余り行わなかったようである。これは他の欧州王国に比べて国王の軍事指揮官としての役割が重要なところから、諸侯に国王の権威を戴冠という儀式の形で示す必要性が小さかった為とされている。それ故に、戴冠式を行う状況というのは儀式を持って諸侯に国王の権威を認めさせる必要がある特殊な状況だと言うことらしい。特に、諸侯の支持を得られていない国王にとっては、エルサレム総大司教による戴冠は諸侯に対して国王が教会の後ろ盾を得ていると示す意味で重要だったようだ。そして、従来エルサレム王国においては聖職者の叙任権は国王に握られていたと見られていたが、特に意外に上級聖職者の叙任に国王が関わることは少なかったようだ。国王が叙任に関わるのは総大司教とティール大司教位だったようだ。王権にとって教権とは対立勢力ではなく、対立勢力を押さえ込む為の道具の一つだったようだ。

  4. 竹内正三編訳 無名第3十字軍記1−3 広島大学文学部紀要27−2,28−2,29−2 1967−1970年
     13世紀初め頃にエルサレム王国で書かれたと考えられている十字軍の記録の訳で、この史料は第三次十字軍の主要史料の一つに数えられている。著述範囲は1189年のハッティンの戦いから英、仏王とドイツ皇帝が到着してアッコン攻城戦を攻略し、エルサレムへ向けて進撃を始める1190年11月迄である。この翻訳は現存する写本の中で比較的短い部類を訳したものらしい。写本に関する説明が少なく、固有名詞や役職名などの邦訳を他の邦語文献と比較すると異なる点が多く読み難い感じがする。別バージョンの英訳が「Helen.J.Nicholson編 The Chronicle of The Third Crusade ASHGATE 1997年」にある。  

  5. 都甲裕文著 コンスタンチノープル条約(1096−1097年)に関する諸解釈 東海大学東海史学22 1987年
     第一次十字軍時に十字軍諸侯がビザンツ皇帝と結んだ条約についての史料の翻訳と諸説を論じた論文。史料はビザンツ皇帝息女アンナのアレクシオス伝、ノルマン人ボエモン配下が書いたと考えられている年代記、レーモン、フーシェ・ド・シャルトル、アルベルト・フォン・アーヘンの年代記で、ここに収録されているのはビザンツ皇帝と十字軍諸侯とビザンツ皇帝が条約を結ぶ部分だけの部分訳である。各史料の著者の紹介もある。メインはこの条約についての四つの説の紹介である。最初の説はビザンツ皇帝は西欧の封建契約とビザンツ流の養子縁組に基づいて十字軍諸侯を家子とし十字軍が占領した旧ビザンツ領をビザンツ皇帝の者とする旨を規定したとする。第二の説は第一の説を肯定しつつ旧ビザンツ領をアンティオキア辺りまでとせず十字軍の全占領地と規定していたとする。第三の説は十字軍諸侯の大半は西欧の封建契約に基づき結びはしたが封臣とはならなかったとする。第四の説はビザンツ側は西欧封建契約に基づいて条約を結んだが、ビザンツの国内法に従って実行しようとしたとする。ビザンツ皇帝と十字軍諸侯の関係の説や史料を紹介と行った感じである。  

  6. 中条直樹著 第4回十字軍とノヴゴロド年代記 古代ロシア研究16 1986年
    各種概説からの第4次十字軍の概説と、ノヴゴロド第一年代記に見える第4次十字軍の記述の検討をした論文。だいたい概説半分、原文の解説半分で構成されている。年代記に収録されている第4次十字軍の記述は決して多くないが、実際にコンスタンティノープルに滞在していたノヴゴロド人に書かれたものであり、中立的な立場から書かれた史料としてみられているようだ。異本間での記述の違いなども文法的な面から検討されている。参考文献一覧では第4次十字軍について解説された日本語の概説書の一覧があり、第4次十字軍の概略を知る助けになる。

  7. 根津由喜夫著 アレクシオス一世とビザンツ軍事貴族−−コムネノス朝支配体制の組織原理−− 西洋史学151 1988年
     第一次十字軍時のビザンツ皇帝アレクシオス一世の支配体制を論じた論文。よく整備された官僚制や身分秩序を持っていたビザンツ帝国だったが、この11世紀頃にはビザンツの体制も弛緩していた。アレクシオス一世は体制を改革し、従来の官僚制とは異なる、皇帝との個人的な関係、従属関係や血縁関係等を重視した国制を作り上げた。これは国の体制と言うより、一つの家を司る体制である。その結果、皇帝の裁量権は増大し、国制は皇帝の個人的な資質や能力に左右されるようになる。第一次十字軍時のビザンツ帝国の国制の状態を知るのによい。ビザンツ帝国を皇帝の個人的なパトロネジで作られた国家としてみる、一つの切り口で全体を分かり易く分析しているように見える。  

  8. 八塚春児著 第一回十字軍の召集 京都教育大学桃山歴史・地理19−22 1982−85年
     クレルモンの公会議を記録した、フーシェ・ド・シャルトル、ロベール、、ボードリ・ド・ドル、ギベール・ド・ノジャンの四つの史料の翻訳と解説。クレルモンの翻訳というとたいていはウルバヌスの演説の部分だけのものばかりだが、この翻訳ではクレルモンの公会議を記録した部分全体が翻訳されている。フーシェ、ロベールはクレルモン公会議についてだけ記録しており、ボードリはエルサレムやビザンツ皇帝に関する件についても語っており、記述範囲は広い。最後のギベールはウルバヌスの経歴に注目している。

  9. 八塚春児著 開始期の十字軍における巡礼と聖戦 京都教育大学桃山歴史・地理28 1993年
     第1次十字軍期の十字軍参加者の十字軍に対する意識を論じた論文。主に同時代史料での十字軍の取り扱われ方と十字軍参加者などの手紙の翻訳で構成されている。収録されている史料はフーシェ・ド・シャルトル、ロベール、、ボードリ・ド・ドル、ギベール・ド・ノジャン、ウィリアム・オブ・マームズベリの十字軍の記録と、ローマ教皇ウルバヌス二世の二通の手紙、十字軍に参加する為に所領を教会などに寄進する旨書かれた寄進文書が四通である。史料の全文翻訳ではなく、この巡礼がどのようなものか説明している部分のみの部分訳である。史料集としても大いに有用である。ローマ教皇と彼の周辺の人々は十字軍が従来から行われてきた巡礼とは明らかに異なる性格のものであるという意識はあったようだ。しかし、一般参加者にはこれが特別な巡礼だという意識はなかったか、あってもそれを表現する言葉を見いだせなかったようだ。

  10. 八塚春児著 第一回十字軍召集の研究史的考察 京都大学史林49−4 1996年
     ローマ教皇ウルバヌスが十字軍をどのように捉えていたかを中心に十字軍思想の研究史を纏めた論文。ウルバヌスの思想を捉えるために彼の代理人たるル・ピュイ司教やウルバヌスの意向を体現した参加諸侯と言われたトゥールーズ伯などの人物からエルサレム、神聖ローマ帝国、教会統一などの件も簡単に絡めながら順を追って研究史を検討している。重要な思想としてキリスト教世界、キリスト教共同体としての組織の下での自由の保障、キリスト教世界の解放と言うことらしい。この思想の下で中東十字軍のみならず、非東方十字軍も説明できると言うことらしい。目標はエルサレムに限らない。キリスト教世界の解放に繋がる戦いこそが十字軍ということらしい。

  11. 前川貞次郎著 十字軍研究の動向と立場 西南アジア研究14 1965年
     一九世紀から1960年代に至る十字軍研究の流れを概観しており、当時の日本における国別に行われている歴史研究のあり方をも併せて批判しているように見受けられる。西欧における十字軍研究は当然ながら西欧中心主義に陥らざるおえない。その中で支配的に見方はやはり東洋と西洋の対決という構想という見方のようだ。更には少し前まで唱えられていた中東への植民運動としての見方も存在している。現在の状況と比較すると、この六〇年代と七〇年代以後の歴史学の急激な変化を実感してしまう。現在、植民運動論は退けられるに至っているし、東洋と西洋の対決の構図という見方も薄まりつつあるように見える。十字軍運動を1292年のエルサレム王国の滅亡で終わるものとする見方も今では見られない。一昔前の歴史学と現在のそれとを比較する意味で大変面白い。

  12. 宮城美穂著 ニケタス・コニアテスの歴史著述における政治理念−−第三次十字軍率いるフリードリヒ・バルバロッサの評価を中心として−− 社会文化史学42 2001年
     12から13世紀にかけてのビザンツの歴史を書いたビザンツの官僚ニケタス・コニアテスの西欧諸国に対する評価と、そこから見えてくる政治理念を検討している。西欧カトリックとビザンツをまとめてキリスト教世界として捉え、イスラーム勢力に対して団結して当たる事を基本理念としているようだ。その理念の通り、イスラーム勢力に直接対した第二次と第三次十字軍に対しては好意的な評価を下し、イスラーム勢力との外交交渉の影響から両十字軍に非協力的な態度を示したビザンツ皇帝イサキオス二世などに対しては同じビザンツ人でありながら非好意的な記述をしているようだ。第四次十字軍にはイスラームに対してではなく同じキリスト勢力たるビザンツを攻撃した事に対して非難している。この論文はニケタス・コニアテスの歴史を読む際の注意事項として捉えていた方がいいのかもしれない。それと、もう一つはビザンツ人全般が十字軍に対して非好意的だったわけではないとする証と見ればよいのだろう。

  13. John France著 The First Crusade as a Naval Enterprise THE MARINER'S MIRROR83-4 1997年
     第一次十字軍時の西欧の海軍の働きを紹介した論文。アンティオキア攻城戦の寸前に十字軍の海軍はアンティオキア近郊の二つの港を占領し、ここから十字軍に補給を行っている。この港を占領したのはイギリスの海軍という伝えもある。主にジェノヴァとピサの艦隊が活動したようだ。十字軍の艦隊はキュプロスを基点としてレバント沿岸で活動を行っている。エジプトのファーティマ朝の艦隊が現れるまで敵は皆無だった。ファーティマ朝と戦闘状態に入ってからもファーティマ艦隊が不活発だったおかげで自由に活動できた。十字軍の海軍は余り記録に現れないが、第一次十字軍の成功には不可欠な要素と言う事のようだ。事例を積み重ねる形で記述を進めているので海軍に関する話が豊富である。

  14. Willam Hamblin著 The Fatimid Navy during The early Crusades:1099-1124 THE AMERICAN NEPTUNE46−2 1986年
     第一次十字軍が行われていた時期のエジプトのファーティマ朝の海軍について検討している。ファーティマ海軍は75から95隻の戦闘ガレーと10隻の大型輸送船、5000名の船員を有していた。海軍の兵士には階級とも言うようなものがあり給料や権限等に格差が設けられ、この論文には明確に書いていないのだが、どうもこの海軍は常備軍だったようだ。欧州の諸国などと違い軍としての組織が簡易なもののようだが存在しており、船員の質も高い。船員の補充や船の材料の調達、臨時の船や船員の徴発などの海軍資源はパレスティナ南部に依存していた。十字軍が南部パレスティナを制圧するに従い、ファーティマ朝は海軍資源を失い、海軍力を失っていき、最終的には東地中海の制海権を十字軍諸国に明け渡すことになった。第一次十字軍時の年毎の十字軍諸国家とファーティマ朝の両海軍の行動を各種史料から構成した年表も付録として掲載されている。

未読資料

  1. 荒木洋育著 リチャード一世期のイングランド領主層 歴史学研究677 1995年
  2. 河田尚子著 十字軍前夜のイスラム文明とキリスト教文明の衝突 比較文明1996 1996年
  3. 今野国雄著 エルンスト・ヴェルナー「中世における十字軍理念」 関東学院大学紀要経済系47
  4. 櫻井康人著 エルサレム王国における騎士修道会の発展−会議・集会の分析を中心に− 史林81−4 1998年
  5. 都甲裕文著 改革教皇座とビザンツ 東海大学バルカン・小アジア研究19 1995年
  6. 中軽米明子著 「サン=ベルナール書簡集」にかんして 史淵135 1998年
  7. 橋口倫介著 騎士の城 人物往来社 1971年
  8. 橋口倫介著 騎士団 近藤出版社 1971年
  9. 橋口倫介著 十字軍 岩波書店 1974年 ¥430
  10. 橋口倫介著 十字軍騎士団 講談社 1994年 ¥940
  11. 松垣裕著 一二世紀末イングランドにおける聖堂騎士団領の構造 歴史学研究267
  12. 松田俊道著 マムルーク朝時代エルサレムの裁判官 中央大学文学部史学科紀要42 1997年
  13. 松田俊道著 マムルーク朝のムサーリマ問題 駒沢史学 1998年
  14. 森竹弘喜著 ラテン王国のburgensis 西洋史学報24 1997年
  15. 山瀬善一著 中世の国際金融とテンプル騎士団 神戸大学経済学研究年報8 1961年
  16. 莵原卓著 ファーティマ朝貴顕の商業活動 東海大学文学部紀要69 1998年
  17. ウサーマ・ブヌ・ムンキズ著 回想録 関西大学出版会 1987年
  18. セシル・モリソン著 橋口倫介訳 十字軍の研究 白水社 1971年 ¥750
  19. ニコラ・ベスト著 五十嵐洋子訳 秘密結社テンプル騎士団 主婦と生活社 1998年 ¥700
  20. フリードリヒ・フォン・ラウマー著 柳井尚子訳 騎士の時代 法制大学出版局 1992年 ¥4800
  21. ルネ・グルッセ著 橋口倫介訳 十字軍 白水社 1954年
  22. ルネ・グルッセ著 橘西路訳 十字軍 角川書店 1970年
  23. レジーヌ・ペルヌー著 橋口倫介訳 テンプル騎士団 白水社 1977年
  24. レジーヌ・ペルヌー著 福本秀子訳 十字軍の男たち 白水社 1989年 ¥3010
  25. レジーヌ・ペルヌー著 福本秀子訳 十字軍の女たち パピルス 1992年 ¥5400
  26. 佐口透編 モンゴル帝国と西洋 平凡社 1970年
  27. 山田欣吾/成瀬治/木村靖二編 ドイツ史一 山川出版 1997年 ¥5619
  28. − 中世史講座 第11巻 学生社 1996年
  29. J.F.Verbruggen著 The Art of Warfare in Western Europe BOYDELL 1997年 (英語)
  30. Norman Housley著 The Later Crusades OXFORD 1992年 (英語)

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