原典史料

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注.
スパルタに関連する記述のみ紹介(紹介というよりは感想文)。
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  1. アイリアノス著 松平千秋/中務哲朗訳 ギリシア奇談集 岩波書店 1989年 ¥700
     二から三世紀頃に書かれたギリシアに纏わる話を集めた作品で、全部で454話掲載されている。政治家から遊女まで様々な人物の逸話や、国の特徴など色々な話がある。当然ながらスパルタに纏わる話も約50話収録されている。人物では主に前4世紀に活躍したアゲシラオスとリュサンドロスがよく扱われている。アゲシラオスはスパルタの賢人の代表として、リュサンドロスは悪党の代表として扱われている。面白いところでは第3巻の10と12がある。どちらもスパルタ人の同性愛をあつかった章である。

  2. アテナイオス著 柳沢重剛訳 食卓の賢人たち1−4 京都大学学術出版会 1997−2002年 ¥15200(合計)
    アテナイオス著 柳沢重剛訳 食卓の賢人たち 岩波書店 1992年 ¥770

     数人の識者が集った宴会で様々な四方山話を論じ合うと言う設定の作品。多くは食に纏わる話だが、哲学や音楽等の話題もある。しかし、それらの多くもやたらと食に絡めた話に持っていってしまう傾向がある。最大の特徴は引用が非常に多い点である。中にはこの書にしか引用のない物も数多くあり、原典としての価値も高いと言われている。スパルタ関係では特に、アルクマンの詩が多数引用されており、他詩人のスパルタ関係の詩も多数ある。スパルタ関係でまとまった記述は、第4巻138Cから141Fのスパルタの宴会と、同巻141Fから143Aのスパルタ王クレオメネスの宴会である。12巻にはスパルタの肥満チェックの話がある。全体で15巻あるのだが、京都大学版は1巻から12巻迄、岩波版は全体の1/3程度の要訳である。どちらも、全訳ではないが、京都大学版では全訳が予定されている。

  3. アポロドロス著 高津春繋訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年 ¥450
     おおよそ一から二世紀頃書かれたのではないかと言われる神話集。ヘラクレス神話に纏わる第二巻七章八節にスパルタ建国神話と呼ばれるヘラクレスの息子達(ヘラクレーダイ)の帰還の神話が掲載されている。スパルタはヘラクレスの子孫達がペロポネソス半島を征服した際に、その一人によって建国されたとされている。それ故にスパルタ王はヘラクレスの末裔だと称している。ヘラクレスは全ギリシア的な英雄なので、ヘラクレスの末裔を名乗るのは、国家の威信を高める上で有利に作用するからでもある。

  4. アリストテレス著 山本光雄訳 政治学 岩波書店 1961年 ¥800
     アリストテレスが政治体制の在り方について論じた書で、スパルタも実例として、実際の分析対象として、幾つかの記述がある。現在、アリストテレスの記述もスパルタ研究の上では重要な史料として位置付けられている。スパルタについては、最も重要なのが、第二巻九章(1269a-1271b)の国政の分析で、否定的な評価がなされている。理由は女性が他のポリスに比べて自由だからと言う。ここで挙げられたスパルタに関するデータの多くは、スパルタ史を構築する上で極めて重要なデータとして受け入れられており、スパルタ批判を展開する上でも、この書が重要視される傾向がある。ある意味ではスパルタに関する最も重要な原典だともいえるかもしれない。但し、この書を読む際にはアリストテレスの女性観を割り引いて読む必要があるように思える。他には第三巻一章(1275b)に裁判、十四章(1285a)に王制、第四巻七章(1293b)に貴族制の例がとられ、九章(1294b)で民主的要素と平等主義、第五巻一章(1301b)に内乱の例、七章(1306b-1307a)にタラス植民と二つの内乱の例と少数者への土地集中の現状、十一章(1313a)に再び王制、十二章(1315b)で国政変化におけるスパルタ国政の位置付けがなされる。当然ながら、最悪の国政として位置づけられている。他にスパルタが関わった事件の例が第五巻三章(1303a)、四章(1304a)に記述されている。

  5. アリストテレス著 高田三郎訳 ニコマコス倫理学 岩波書店 1971年 ¥900(2巻の合計)
     徳について語る過程で、スパルタを例として挙げている箇所が幾つかある。その中で、スパルタの慣習、或いはスパルタに対するイメージが述べられている。スパルタ人はボロ服を着ている、スパルタ人は感心すると「神様みたいな人だ」と言う等。アリストテレスは「政治学」を見る限りではスパルタを低く評価しているが、この書を見ると逆の評価をしているように見える。スパルタの立法者だけが、市民が法に耳を傾けるよう、青年の教育に、配慮したと評価し、悪い評価は述べられていない。両書の違いはスパルタのどの面に着目したかの違いで、たぶんアリストテレスのスパルタに対する評価が変わったというわけではなかろう。

  6. アリストテレス著 村川堅太郎訳 アテナイ人の国制 岩波書店 1980年 ¥620
     アテナイの国政の変化を語る過程で、スパルタとの関わりが述べられている。19章に前6世紀に行なわれたスパルタのアテナイへの武力介入があり、29章1節,32章3節,34章,37章2節,38章にペロポネソス戦争から終結直後に到るアテナイへのスパルタの影響が散見される。

  7. イソクラテス著 小池澄夫訳 イソクラテス弁論集1 京都大学出版会 1998年 ¥−
     前4世紀のアテナイの弁論家イソクラテスの弁論集。スパルタについては「民族祭典演説」でスパルタとアテナイの歴史を綴る形で、スパルタ批判とアテナイ賛美を展開し、その論説を持って対ペルシアへの全ギリシア的団結を呼びかけている。「アルキダモス」はスパルタ王アゲシラオスの息子アルキダモスがレウクトラの敗戦に続く危機を乗り越えるべくスパルタ市民に呼びかけるという形で、レウクトラの戦い前後の状況が論述されている。どちらも、当時のスパルタがギリシア諸民にどのように見られていたか、スパルタの歴史がどのように理解されていたかを知るのに有用な史料である。

  8. キケロ著 岡道男編 キケロー選集2 岩波書店 2000年 ¥6800
     キケロがスパルタについて解説した部分がある「フラックス弁護」が収録されている。154から155頁にその部分がある。分量としては僅かだが、この弁論がスパルタ人やアテナイ人等の多くのギリシア人やローマ人の前で行われた点などを考えると、ここで言われているスパルタが700年以上慣習も法も変更しなかった、というイメージが広くローマ世界で信じられていたとする証拠の一つとも取れる。

  9. キケロ著 岡道男編 キケロー選集12 岩波書店 2002年 ¥6400
     キケロがスパルタで見た鞭打ちの儀式を記録した「トゥスクルム荘対談集」が収録されている。スパルタにおける鞭打ちの儀式についての最古の記録がこのキケロの証言であり、これ以前にはない。キケロ以前に鞭打ちの儀式の記述がないところから鞭打ちの儀式はヘレニズム期に作られた制度であり、スパルタの最盛期たる古典期にはなかったとする学説がある。この本だと、128、138、139頁に鞭打ちの記述がある。他にも、82から84頁にはスパルタ人が死を恐れないことを賞賛する記述があり、スパルタ人賛美が目に付く。ここの記述はあくまでローマ期のスパルタに対するイメージであり、ローマ期のスパルタの姿を描いたものに過ぎない点を考慮した上で読み解く必要がありそうだ。

  10. クセノポン著 根元英世訳 ギリシャ史1,2 京都大学学術出版会 1998−9年 ¥2800,3000
     ペロポネソス戦争後半戦からボイオティア戦争迄を記述した原典史料。この時期のギリシア史の主役はスパルタである。そして、スパルタの凋落が明確になるのもこの時期である。ペロポネソス戦争によりギリシアの主導権を握るが、アテナイ、ペルシア、コリントス、テーベと次々と敵対者を作り出してしまい。最終的にはレウクトラの戦いでテーベに破れてギリシアの二流国に滑り落ちてしまう。スパルタ衰亡史ともいえるかもしれない。但し、出てくる敵を次々と破り、最後の一戦に敗れて一気に凋落するので、亡国の悲壮感はない。この書はペロポネソス戦争後半以後のスパルタを知る上で最も重要な史料として位置付けられている。

  11. クセノポン著 古山正人訳 「ラケダイモン人の国制」試訳 電気通信大学紀要第2巻1号 1989年
     クセノポンがその経験と見聞を基に記した、スパルタの国制。スパルタでは法の支配がいかに徹底してるとか、教育、軍事について記されている。クセノポンにしては珍しく、最後の章にスパルタ批判が展開している。但し、スパルタの法が悪いとか言うのではなく、ペロポネソス戦争の勝利に伴いギリシア各地に派遣されたスパルタ人の不正を糾弾する形でスパルタ批判が行われている。スパルタの国政を知る上ではプルタルコスの「リュクルゴス伝」と並んで最高の史料である。この翻訳では、この著作に纏わる研究史や、クセノポンの経歴なども紹介されている。

  12. クセノポン著 松平千秋訳 アナバシス 筑摩書房 1985年 ¥3500
    クセノポン著 松平千秋訳 アナバシス 岩波書店 1993年 ¥720

     ギリシア軍一万人の逃避行として有名な作品。第六巻以降を、特に第六巻一章二六から二九節のクセノポンの演説を見ると、ペロポネソス戦争以降、スパルタがいかにギリシア世界全体に畏怖されたかがよくわかる。只、二巻三章二一から二三節のクレアルコスや、六巻一章三一から三三節のケイリソポス等のスパルタ人の演説を読んでいると、スパルタ人について言われる関係明快で、警句的な短い言葉を語るという話を信じられなくなってしまう。彼らは意外に雄弁だ。そして、四巻六章一四から一四節にスパルタ教育の一端である盗みの訓練についての話があり、第七巻ではスパルタの対ペルシア戦争の記述が出てくる。

  13. クセノポン著 松本仁助訳 クセノポン小品集 京都大学学術出版会 2000年
     スパルタについて色々と書き残した著作家クセノポンの短編を集めた本。スパルタ関係では、他にも訳がある「ラケダイモン人の国政」(「クセノポン著 古山正人訳 「ラケダイモン人の国制」試訳 電気通信大学紀要第2巻1号 1989年」)と、「アゲシラオス」がある。クセノポンはスパルタで生活したことがあり、小アジアにおいてスパルタ王アゲシラオスの下で、ペルシア相手の戦いに傭兵隊指揮官として参加し、二人の息子にはスパルタの教育を受けさせている。故に、「ラケダイモン人の国政」はスパルタの国政を知る上では第一級の原典史料だといわれている。「アゲシラオス」はアゲシラオス王を賛美した伝記。

  14. ストラボン著 飯尾都人訳 ギリシャ・ローマ世界地誌1 龍溪書舎 1994年 ¥35000
     一世紀にストラボンが記した地誌で、当時のローマ世界が知りうる世界の地理やそれに纏わる四方山話が掲載されている。第八巻(618か715頁)にスパルタが覇を唱えたペロポネソス半島の記述があり、その中で第五章(671から681頁)にスパルタがあるラコニア地方の、第四章(663から670頁)に長くスパルタの従属地であったメッセニアの記述がある。基本的に地誌なので地理に関する記述が主だが、スパルタ詩人テュルタイオスの解説と詩の一節が掲載されていたり、ローマやマケドニアに対して独立を維持した話や、リュクルゴスに纏わる話など、歴史上のトピックス的な話も鏤められている。

  15. ディオゲネス・ラエルティオス著 加来彰俊訳 ギリシア哲学者列伝(上) 岩波書店 1984年 ¥720
     3世紀に書かれたギリシアの哲学者達のエピソードを集めた伝記集。第1巻3章にギリシア7賢人の一人で、前7世紀頃の筆頭エポロスのキロンの伝記がある。ここに幾つかのエピソードとキロンの手紙と詩が掲載されている。これはキロンを知る上で重要な原典の一つに数えられている。

  16. トゥキュディデス著 久保政晃訳 戦史 上中下 岩波書店 1966年 ¥1750(三巻で)
     前四世紀頃にペロポネソス戦争の大半を記した原典史料。近代の歴史家のごとき著述方針と態度には近年の歴史家すらもうならせるほどの傑作。読み物としては味もそっけもなく面白みにかけるが、それが逆に当時の戦争に対する倦怠感をよく表しているのではと思えてならない。ペロポネソス戦争を調べる時の必読書とも言われている。しかし、スパルタ人は寡黙で弁舌は簡潔だと言われているが、この本を読む限りでは、スパルタ人もアテナイ人のように雄弁に見えるのだが気のせいだろうか。それと、登場人物の演説文が、どれも長いこと長いこと。それと、私はこの本に出てくるスパルタ人の中では、第7巻でシケリア島へ援軍に行ったギュリッポスが最もスパルタ人らしいスパルタ人に見えてならない。

  17. パウサニアス著 飯尾都人訳 ギリシャ記+ギリシャ記附巻 龍溪書舎 1991年 ¥22000
     二世紀にパウサニアスが記したギリシャの案内書である。ギリシャの案内書であるので、当然ながらスパルタも紹介されている。スパルタは第三巻一から二章(175から212頁)で、リュクルゴス以前の王制からヘレニズム期辺り迄の概史、市内の案内とそれに纏わる祭りや逸話等の紹介が記され、スパルタの支配領域、ラコニア地方の紹介が第三巻三章(213から233頁)にあり、スパルタの支配下に長く収まっていたメッセニア地方についても第四巻全体(237から310頁)で紹介されており、第二章(244から262頁)に第一次メッセニア戦争、第三章(263から279頁)に二次メッセニア戦争の記述があり、第四章(280から295頁)でその後のスパルタとメッセニアの関わりが二次メッセニア戦争終結からナビス王の時代に至る範囲で記述されている。メッセニア戦争を巡る記述としては最も詳細に記しているのがこの書なので、スパルタ史の原典史料としてそれなりに重要な地位を占めている。スパルタはギリシャ全土に影響力を行使しただけあって、各地域の概史にちょくちょく顔を出している。全体の調子は観光案内の様な感じ。

  18. フラウィオス・アッリアノス著 大牟田章訳 アレクサンドロス東征記およびインド誌 東海大学出版会 1996年 ¥−
     基本的にはアレクサンドロス大王の東征を扱った書だが、スパルタも僅かながら登場する。アレクサンドロス大王が対ペルシア戦争の統帥権をギリシア諸市に要求した時にスパルタが拒否したところからアギス王の対マケドニア戦迄が記されているが、それほど詳細な記述はない。一つ注目できる情報は1巻9.3−4(155頁)にある、スパルタがテーバイに敗れた時の状況を説明した部分くらいである。後は、アレクサンドロスの東征中スパルタがペルシアと組んで何をしようとしていたのかを、そこかしこの記述から構成できそうである。この辺りについては「小田洋著 アギス戦争の年代 鹿児島大学法文学部紀要人文科論集46号」「大牟田章著 「アーギス蜂起」の背景−−アレクサンドロス東征下のギリシア世界 富山大学文理学部 文学科紀要1号 1973年」で検討が行われている。索引でラケダイモンの部分を引けば、関係部分は容易に引き出せる。

  19. プラトン著 藤沢令夫訳 国家(上下) 岩波書店 1979年 ¥1200(三巻で)
     前四世紀頃に書かれた書でギリシア哲学を学ぶものには必読の書とか呼ばれている作品。基本的に理想的な国家とは何かを論じた書で、その過程で教育とか、善悪の観念、世界の成り立ちなど、様々な哲学的論述が現れてくる。スパルタという語が出てくるのは全体で四カ所しかないが、第八巻一章(544c)でスパルタは現実に現れた最良の国家として定義されており、この書で論述された最良の国家とはスパルタをモデルにして構想されたと言われている。理想国家の記述をスパルタに当てはめると、守護者(統治者)=スパルタ市民、統治される民衆=ペリオイコイ、ヘイロータイとなる。そして、守護者は女を共有し、あらゆる生産活動から解放され、定められた教育プログラムで教育する必要がある、とする考えもスパルタを思い浮かべたくなるような国政である。ここで述べられたスパルタ像とはあくまでも当時の哲学者が描いた理想像に過ぎないが、当時の知識人がスパルタをどういう風に見ていたかが分かる。この書は教育と哲学において後世へ大きな影響を、特に教育へ多大な影響を与えた。故に、この書の影響は間接的にスパルタが後世の教育へ与えた影響の一つとも考えられるのである。

  20. プラトン著 藤沢令夫訳 プロタゴラス 岩波書店 1988年 ¥400
     プラトンの初期の作品で、前400年前後に書かれたとも言われた作品。当時の知識人の間でスパルタがどのように見られていたのかの一端を知ることが出来る。この中で、プラトンはソクラテスの口を借りて、多くの著名な哲学者達がスパルタでは哲人教育が実現していたと証言していると、言わしめている。この本だと104から108頁に当たる。その証拠としてスパルタ人は寡黙だが、デルフォイに捧げられた「汝自らを知れ」等の極めて簡潔だが奥の深い格言を残している点を上げている。前四世紀初頭の親スパルタ派の知識人がスパルタをどのようなイメージで見ていたのかを知る史料になる。

  21. プラトン著 森進一/池田美恵/加来彰俊訳 法律(上下) 岩波書店 1993年 ¥1540(合計価格)
     前4世紀頃に書かれたプラトン最後の作品と言われている作品。クレタに新たな国家を建設するために法律を制定するという設定で、クレタとスパルタの老人を相手に法律論を展開している。その過程でクレタやスパルタ、更にはアテナイの法律が検討されている。プラトンはスパルタを理想的に国家として賞賛していると言われているが、この書を読む限りは、必ずしもそうではないようだ。スパルタの問題として女性が自由すぎることや、国政が軍事的な方に傾倒し過ぎる点などを問題としている。それでも、やはり理想国の土台としてスパルタを選んでいるように見られる。重要な指摘として挙げられるのは第3巻11章に現れた混合政体の指摘である。スパルタは民会、王、エポロス、長老会と、王制、貴族制、民主制などのあらゆる要素を持つ国家であると指摘している。この混合政体の指摘は、後にローマの歴史家ポリュビオスに受け継がれ、ローマは混合政体であるとの論が現れ、最終的にはモンテスキューの三権分立の理論へと繋がっていったとする考えがある。これも、考えようによってはスパルタが後世になした大きな影響の一つと取ることが出来るだろう。但し、現代の歴史家の多くは、プラトンの描くスパルタ像はあくまでプラトンの描いた哲学的理想像に過ぎず、現実のスパルタとはかけ離れた物なのだろうという見解を取っているようだ。

  22. プリニウス著 中野定雄/中野里美/中野美代訳 プリニウスの博物誌1 雄山閣 1986年 ¥48000
     一世紀の政治家にして博物家のプリニウスの著作。第四巻一六節(179頁)にラコニア地方の地勢的な説明がある。この時代にはスパルタを含む10個の町があったようだ。第7巻109節(317頁)にリュサンドロスがアテナイ攻撃中に見た夢の話が掲載されている。第7巻119節(319頁)にギリシア7賢人の一人、スパルタのキロンの紹介がある。第7巻133節(323頁)には王の娘で、妻で、母であった歴史上唯一の人としてスパルタのランピドが、第7巻200節(337頁)には奴隷制度、剣や兜の発明者としてスパルタ人が挙げらる等、あちこちに妙な記述がたくさんある。探せばまだまだあるのだろうが、スパルタ史料としては何処まで使えるのやら。

  23. プルタルコス著 河野与一訳 プルターク英雄伝1−12巻 岩波書店 1952−56年 セット価格¥5940
    プルタルコス著 鶴見裕輔訳 プルターク英雄伝1−8巻 潮出版社 1971年 ¥3990(全体の価格)
    プルタルコス著 村川堅太郎編 プルタルコス英雄伝 上中下 筑摩書房 1987年 各¥700

     筑摩版には全ての翻訳はないが、最も読み易い。岩波版は全訳たが、旧語体なので読み難い。潮版は岩波版より読み易いが、注がなく文体も比較的古い型なので筑摩版より読み難い。1から2世紀の著述家にしてデルポイの神官であるプルタルコスが記した、ギリシアやローマ人や彼らに関わった全部で50人の伝記。スパルタ人の伝記は5本ある。スパルタの独特な体制を創設したと伝えられているリュクルゴス、ペロポネソスを終結させたリュサンデル、ペロポネソス戦争に続いて発生した対ペルシア戦争からボイオティア戦争とスパルタ絶頂期の前4世紀の王アゲシラオス、スパルタの凋落期、前3世紀に古来の法の復活によりスパルタをもり立てようとしたアギスとクレオメネスの伝記がある。この中で筑摩版には、アギスとクレオメネス、リュクルゴス伝が収録されている。プルタルコスの伝記の中では特にリュクルゴス伝は重要で、現在でもスパルタというと、このリュクルゴス伝に描かれたスパルタが語られることが多く、現在に至るも教育史関係ではスパルタ教育というと、プルタルコスのリュクルゴス伝が引用されるほどである。他にも、スパルタに関わった人物の伝記が幾つかある。

  24. プルタルコス著 柳沼重剛訳 食卓歓談集 岩波書店 1987年 ¥450
     1か2世紀頃に書かれた四方山話集で、原著の約4割を選別翻訳しており、主に食に関する話題が集められている。その中にスパルタ人の風習に纏わるものも幾つかある。54頁(2巻1章:631f)にスパルタ人の冗談の作法があり、これによると冗談を言って相手が黙り込んでしまったら、それ以上その冗談を言うことは許されない。83頁(2巻10章:644b)では、スパルタ人の食事の作法の一つがある。食事では「肉配分人」として第一等者が一人任じられる。例としてリュサンドルがアゲシラオス王に「肉配分人」任じられたことが挙げられている。204頁(8巻2章:719b)では、スパルタ人が算術的比較法を追放して、幾何学的比較法を重視したとある。その意味は単純に数で割った平等ではなく、価値に応じた平等がスパルタでは採用されていたという事だそうだ。214頁(8巻4章:724d)によるとスパルタの競争の名手はアポロンにお供えをするとある。スパルタ人の宗教的な行動の一端を解説している。但し、これらが何処まで信頼できる史料なのかは不明である。

  25. プルタルコス著 戸塚七郎訳 モラリア14 京都大学学術出版会 1997年 ¥−
     165から218頁にプルタルコスが書いたと伝えられているが、現在は他の著作家が書いたと言われている「音楽について」が掲載されている。ここでスパルタの音楽についても論じられている。問題は記述があちこち飛んで、スパルタに関する記述を追いかけるのが困難なのである。とりあえず、スパルタ音楽の基礎を築いたと言われるテルパンドロスを追いかけるとよい。9節(1134b 175頁)に音楽が最初に組織されたのはスパルタだとある。文化的に貧困だと言われたスパルタだが、前6世紀以前には音楽や工芸、絵画など豊かな文化があったことは考古学的にも、他の史料からも支持されている。そして、この記述もその根拠の一つとして位置づけられている。この記述を信じるなら、実に多くの場所からスパルタに詩人が集まっている。彼らにとり、スパルタはそれだけ魅力ある地だったらしい。

  26. ヘロドトス著 松平千秋訳 歴史 上中下 岩波書店 1971,72 ¥2000(三冊全体の価格)
     ヒストリアを歴史という意味にしてしまう基となった著作。ペルシャ戦争を記した書だが、全九巻中、最初の四巻はその前史として、ペルシャ帝国の建国史的なものがきている。この書は余談が多く、首尾一貫した歴史書といった感じてはないが、面白い逸話をたくさん並べてくれるので読み物として面白い。スパルタ王レオニダス麾下の三百人のスパルタ兵が三百万のペルシャ軍と戦い全滅したとする話もこの書の第七巻208から233の部分から出た話である。第一巻65と66にスパルタのリュクルゴス体制成立の記述がある。

  27. ポリュアイノス著 戸部順一訳 戦術書 国文社 1999年 ¥6000
     2世紀に時の皇帝マルクス・アウレリウスとルキウス・ウェルスに献呈された書。基本的には他文献の引用集で、引用された文献の多くは現存してるが、中には現存していない文献からの話もあり、原典史料としての価値は幾らかあるようだ。内容の多くは奇策や士気昂揚法である。スパルタ人に纏わる話は主に1と2巻で紹介されている。女達の話の最後に「ラケダイモン人の女達」と言う話があるのだが、残念なことにここの部分は欠損していて内容が分からなくなっている。

  28. ネポス著 山下太郎/上村堅持訳 英雄伝 国文社 1995年 ¥3200
     前1世紀頃のローマの伝記作家コルネリウス・ネポスの伝記集。24人の伝記があり、スパルタ人の伝記もある。扱われていいるのはペルシア戦争時のプラタエアエの戦いでギリシア軍の総指揮官を務めたパウサニアス、アテナイを占領して最終的にペロポネソス戦争を終わらせたリュサンデル、ペロポネソス戦争後の対ペルシア戦争、コリントス戦争においてスパルタを指導したアゲシラオスの3人。他にも、スパルタに関わった人物の伝記が何本かある。例えば、ペロポネソス戦争の戦局をスパルタ優位へと導くきっかけを作ったアルキビアデス、レウクトラの戦いでスパルタの凋落を決定づけたエパミノンダス等々である。

  29. ユニアヌス・ユスティヌス著 合阪學訳 地中海世界史 京都大学学術出版会 1998年 ¥4000
     三世紀にユニアヌスがポンペイウス・トログスの歴史書を妙録した作品で、基となったポンペイウス・トログスの作品は現存していない。スパルタ関係では、二巻一〇章から六巻九章(78から136頁)のペルシャ戦争、それに続くペロポネソス戦争、コリントス戦争、ポイオティア戦争に至る範囲に、その時スパルタが何をしたのか、主要な関係者の行動に合わせた記述が散在している。三巻二章から三章(92から94頁)にはリュクルゴス体制に纏わる話があり、ここで突然時代が遡り、三巻四章から五章(94から97頁)で第一次、二次メッセニア戦争、タラス植民の記述が続く。この後再び時間が戻り、ペロポネソス戦争の記述へ繋がる。これ以降では、一二巻一章(189と190頁)にスパルタ王アギスvsマケドニア留守部隊の戦いが、二四巻一章(308頁)、二五巻四章(322頁)、二八巻四章(339と340頁)にヘレニズム諸王国との戦いが、三一巻一章から三章(355から357頁)にローマに対した戦いが記述されている。

  30. リウィウス著 米田利浩訳 ローマ史「概要」 北海道教育大学史学会史流 36号 1996年
     後4世紀に、1世紀に書かれたリウィウスのローマ史の要約として作られた作品。32から35巻に前3から2世紀に行われたナビス王戦争の記述がある。概要なので、実に僅かな情報しかない。32巻でナビス王、ローマと友好関係を結ぶ。33巻で、ナビス王がローマと戦って敗れ支配下にあったアルゴスを失う。35巻で、ローマとの戦争準備中にアカイア人と戦闘中に死んだ。

  31. ルキアノス著 内田次信訳 ルキアノス選集 国文社 1999年 ¥5800
     2世紀の著述家ルキアノスの著作集で、スパルタについても幾つか記述がある。この本だと163頁と327頁にスパルタ人が受ける鞭打ちを題材にとった笑話があり、208頁にディオゲネスがスパルタ人を叱る話がある。ルキアノスの著作は二世紀のスパルタのイメージを伝えるものとしての価値がある。これを見る限り、スパルタ人の鞭打ちは極めて広く知れ渡っており、スパルタ人の基本的なイメージとして定着していたように見受けられる。

  32. 飯尾都人編訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年 ¥25000
     前1世紀のディオドロスの世界史の1から6巻の訳、1世紀のポンポニウス・メラの世界地理の全訳と、2世紀のプルタルコスのイシスとオシリスの全訳が掲載されている。ディオドロスの著作はギリシア神話に纏わる部分が翻訳されており、スパルタの建国伝説たるヘラクレイダイの帰還も350から352頁にある。ポンポニウス・メラの著作は地理案内ばかりで、スパルタの記述は殆どなく、522頁にラケダイモン周辺の地理が解説されているくらいである。

  33. 呉茂一訳編 ギリシア・ローマ叙情詩選 岩波書店 1991年 ¥670
     ギリシア・ローマの詩集だが、145から152頁に前600年頃にスパルタで活躍した詩人、アルクマンの詩が8本掲載されている。問題は、断片からの翻訳なので意味不明な詩もある。訳は詩であるという点を意識して作られている。アルクマンの他にシモニデスがペルシア戦争のテルモピュライの戦いで戦死したスパルタ人に捧げた詩も32と33と35頁に掲載されている。アルクマンの詩については「アルクマン著 呉茂一編 ギリシア・ローマ叙情詩集 河出書房 1952年」にも掲載されている詩が3本あるが、訳している人が違うので雰囲気がだいぶ異なっている。シモニデスの詩は有名な詩だけあり、前書にも掲載されている。

  34. 呉茂一訳編 ギリシア・ローマ叙情詩集 河出書房 1952年 ¥300
     ギリシア・ローマの詩集だが、6から11頁に前600年頃にスパルタで活躍した詩人、アルクマンの詩が8本掲載されている。実際には付いていなかった表題まで付いている。アルクマンの詩については「アルクマン著 呉茂一訳 ギリシア・ローマ叙情詩選 岩波書店 1991年」にも掲載されている詩が3本あるが、訳している人が違うので雰囲気がだいぶ異なっている。ペルシア軍相手にスパルタ軍が全滅したテルモピュライの戦いにまつわるシモニデスの詩が108から113頁に5本も掲載されている。

  35. 下中弘編 西洋史料集成 平凡社 1956年 ¥29000
     西洋の古代から現代に至る史料集で、古代編の中にスパルタの史料もある。しかし、プルタルコスやパウサニアス、ストラボン、クセノポン、ヘロトドス、アリストテレスの記述等、大半は別に訳がある。他に訳がない物には、79頁に掲載されたペロポネソス戦争時のスパルタへ寄付の細目だけである。他に、重要なものではスパルタとの類似がやたらと指摘されるクレタの法律の一つ、ゴルテュン市法典が81から83頁に掲載されている。

  36. 高津春繁編 ギリシア喜劇全集1−2 人文書院 1961年 ¥3600(全部で)
     完全な形で現存するアリストパネスの喜劇11編と、メナンドロスの喜劇4編が収められた喜劇集。両者は当時の世相を風刺する劇を数多く作っており、完全に現存するものはこの全集に全て収められている。スパルタについての記述も多数あり、当時アテナイ人のイメージしたスパルタ象が浮かび上がってくる。例えば、スパルタ婦人は雄牛すら絞め殺すと表現されたり、平和の祭典でスパルタ人は軍歌を歌うとか、スパルタ人はキツネのように狡猾だとか、いろいろある。  

  37. 丹下和彦編訳 ギリシア合唱抒情詩集 京都大学学術出版会 2002年 ¥4500
     スパルタ人とも言われている詩人アルクマン、スパルタを歌ったシモニデス、バッキュリデスの詩が掲載されている。通常なら、意味不明な断片として処理されそうな詩まで、多くが翻訳されている。私もここに掲載されている詩の多くの翻訳を試みていたが、これをみて自らの語学力の乏しさに愕然とした。私事はいいとしてアルクマンの詩はアルカイック期のスパルタ社会の一面を知る上で重要な史料である。質素で武骨なイメージのつきまとうスパルタだが、アルクマンの詩を見る限りでは、スパルタにも豊かな食と芸術があるように見受けられる。  

  38. 松平千秋編 ギリシア悲劇1−4 筑摩書房 1986年 ¥3940(全部で)
    松平千秋/久保正彰/岡道男編 ギリシア悲劇全集1−13+別冊 岩波書店 1990−3年 ¥−

     筑摩版にはアイスキュロス、ソボクレス、エウリビデスのギリシアの代表的な悲劇作家の完全に現存する作品が全て収められており、岩波版にはそれ以外の作家や断片まで収録されている。但し、ハードカバーで一冊に収録されている数が少なく扱い難い。筑摩版は文庫4冊なので扱い易い。ギリシア悲劇はギリシア神話に題材を取る物が多く、作品が作られた時期の時代背景を汲み取りにくい、或いは汲み取れないと言われているが、ヘレネ、ヘルミオネには当時のスパルタ女性のイメージが、メネラオスにはスパルタ男性のイメージが反映されていると見ることが出来る。戦争しかできないとか言う具合に、スパルタを解説する部分が現れることがある。これも当時のスパルタ象を反映する物だと取ることが出来る。前六から五世紀のスパルタ象を汲み取る史料として活用できる。  

  39. − 西洋古代史料集 東京大学出版会 1987年 ¥2400
     ヨーロッパ古典古代の様々な史料の断片を集めた史料集。21から24頁にスパルタを解説したプルタルコスのリュクルゴス伝の引用があり、59から61頁に前5世紀頃のスパルタ社会の変質を述べたクセノポン、アリストテレス、プルタルコスの引用があり、76から78頁に前4世紀のスパルタの状態を記したプルタルコス、ポリビオスの引用がある。ここで引用されているプルタルコス、アリストテレス、クセノポンの著述については別に邦訳がある。77と78頁のポリビオスだけは邦訳がない。

  40. − 中川純男訳 初期ストア派断片集1 京都大学学術出版会 2000年 ¥3600
     前3世紀にクレオメネスに改革案の作成を依頼されたストア派の哲学者スパイロスの著作の断片と彼に関する古代の情報が360から367頁にある。スパイロスはストア派の創始者ゼノンとゼノンの弟子のクレアンテスに学んでいる。一部の研究者はスパイロスの改革案にはゼノンやクレアンテスの影響が色濃く反映していると推測している。ゼノンの著作と生涯は5から203頁に、クレアンテスは277から359頁にある。前3世紀以降のスパルタの国政はスパイロスの改革案を元にしたクレオメネスの改革により作られたものと考えられる。故に、ストア派の思想は前3世紀以降のスパルタを知るに有用な史料となる。

  41. Aristotelis著 Valentinvs Rose編 Qvi Ferebantvr Librorvm Fragmenta B.G.TEVBNERI 1966年 (ギリシア語・ラテン語)
     Rose断片集としてアリストテレス研究家の間では有名な断片集で、現在は失われたアリストテレスの著作の再構築が試みられている。その中で258から407頁に Historica が収録されており、その中にスパルタに関するものも幾つかある。例えば、断片541 には教育について、断片611.12 には土地を売ることが不名誉だと考えられていたことが記されている。大半は他の著作の引用断片で全て原文で収録されている。

  42. Diodorus Siculus著 C.H.Oldfather/C.L.Sherman/C.Bradford Welles/Russel.M.Geer/Francis.R.Walton訳 LOEB CLASSCAL LIBRARY No.279,303,340,375,384,399,389,422,377,390,409,423 LIBRARY OF HISTORY1-12 HARVARD 1933−67年(英語・ギリシア語)
     前1世紀のシキリアの歴史家で、神話の時代から紀元前60年に至る東地中海の歴史を記した書で、書き方としては年毎に何が起きたかを記していく年代気風の方法が採られている。各年はアテナイのアルコンとローマのコンスルの名前で示される。記述は主にローマとギリシアの出来事に集中しており、大半は別の歴史書からの抜粋で構成されている。故に、記述の間に矛盾も多い。抜粋に使われた歴史書の多くは現存しておらず、史料的価値は大きい。最初の6巻には「飯尾都人編訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」に邦訳もある。10巻以前に記されている前480年以前の出来事は各国の神話で、ここでは年代毎ではなく、事件毎に記述がなされている。例えば、トロイ戦争とか、アルゴナウティカとか言う具合である。前480年から302年迄の部分はほぼ完全な状態だが、301から60年の間は断片しか現存していない。  

  43. Plutarch著 B.Perrin訳 LOEB CLASSCAL LIBRARY No.245:MORALIA 3(モラリア) HARVARD 1928年 (英語・ギリシア語)
     プルタルコスが道徳的な言葉として集めた言語録がこの巻には収録されている。その多くはスパルタ人の言葉である。スパルタ人の言葉は男性の言葉と女性の言葉に分けて収録されており、当然ながら男性の言葉が圧倒的に多い。その中でも、前4世紀のスパルタ王アゲシラオスの言葉が多い。女性の言葉の中では前5世紀のスパルタ王の娘にして后たるゴルゴの言葉が多い。各種文献からの引用で構成された「CUTSOMS OF SPARTANS:スパルタ人の国政」も収録されている。

  44. D.A.Campbell編 LOEB CLASSCAL LIBRARY No.143:GREEK LYRIC 2(ギリシャの叙事詩) HARVARD 1988年 (英語・ギリシア語)
     前七世紀頃のスパルタの詩人、アルクマンの詩が360から505頁に、古代の著述家が記したアルクマンの記述が336から359に掲載されている。問題は殆どが断片で何を言っているのかがよくわからない。英文の方も一部ギリシャ語表記しなければならないほどだ。古代の著作でアルクマンの詩として引用されている部分は問題ない。残存するアルクマンの詩の多くは合唱歌である。スパルタにおいては芸術は忌避されていたが、唯一合唱だけは奨励されていた。そこで、アルクマンとか、テュルタイオスの詩が重用されたのである。アルクマンの出身については小アジアかスパルタかで説が別れている。他にも、7世紀中頃に全ギリシア規模の音楽祭カルネイア祭で優勝し、スパルタの内紛を音楽の力で収拾し、音楽の基礎を築いたと言われているレスボス島出身の詩人テルパンドロスの解説と詩が294から319頁に掲載されている。

  45. J.M.Edmonds編 LOEB CLASSCAL LIBRARY No.258:GREEK ELEGY AND IAMBUS 1(ギリシャの悲歌と詩学) HARVARD 1931年 (英語・ギリシア語)
     前七世紀頃のスパルタの詩人、テュルタイオスの愛国的な詩が59から79頁掲載されている。更に、その詩の出典も明らかにされている。例えば、アリストテレスの政治学からとか。テュルタイオスについて古代の著述家が記した記述も51から59頁に収録されている。問題は幾つかは欠損が激しく非常に読み難い、というより読めない。大半は現在日本語訳が出ている著作物からの引用なので、この本を基にその著作物を探して読んだほうがよいかもしれない。テュルタイオスにはアテナイ出身説とスパルタ出身説の二つがある。

  46. R.Meiggs/D.Lewis編 A Selection of Greek Historical Inscriptions to the End of the Fifth Century BC CLARENDON PRESS 1988年
     前5世紀末頃のギリシアの碑文を集めた資料集。多くはアテナイに関する碑文で、スパルタ関係の碑文は3つしかない。だが、幸いな事にこの内2つには邦訳がある。1つは「パウサニアス著 飯尾都人訳 ギリシャ記+ギリシャ記附巻 龍溪書舎 1991年 5巻24.3」に記された文と同一である。もう一つはこの3つの内で最も重要と思われる史料で、前427年頃にスパルタへの戦費寄付の目録で、「下中弘編 西洋史料集成 平凡社 1956年」79頁に全訳が掲載されている。スパルタはアテナイと違い市民や同盟諸市から戦費を調達するシステムを持っていなかった。そのような状態でスパルタが如何にして戦費を調達したのかの一端を見せてくれる史料である。寄付された物は金銭や貴金属ばかりでなく、干しぶどうや麦等の現物も含まれていてなかなか面白い。最後の史料は前405年にペロポネソス戦争の勝利をスパルタにもたらしたアイゴスポタイの戦いを記念してスパルタがデルポイ神殿に奉納した像群の基部についていた石板の記述である。これらの像については「パウサニアス著 飯尾都人訳 ギリシャ記+ギリシャ記附巻 龍溪書舎 1991年 10巻9.7−10」に記載されているが、この石板に書かれた文章の内容については記載がない。

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