主要文献資料

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注.
スパルタに関連する記述のみ紹介(紹介というよりは感想文)。
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  1. 合阪學著 ギリシャ・ポリスの国家理念 創文社 1986年 ¥11000
     70から76頁に建国当初のスパルタの国政と支配体制についての記述があり、232から264頁にエポロス職を中心にしたスパルタの国政論が展開している。これによるとスパルタは民主制、貴族制、王制の3つの制度の混合政体だと古代では捉えられていた。その中で民主制の担い手として位置付けられたエポロス職がどのような変化を経てきたのか、どう捉えられてきたのかが論じられている。スパルタの国政の一翼を担うエポロス職の役割や、古代の思想家が最良の国政と考えた混合政論を理解する上で良好。但し、混合政体なるものは、古代の思想家の思想の一つだという点に注意しなければならない。

  2. 安藤弘著 古代ギリシアの市民戦士 三省堂 1983年 ¥1800
     109から125頁で従属農民の定義とヘイロータイの位置づけ作業が行われ、125から132頁でヘイロータイの立場の変化を中心にしてスパルタ史が概説される。その結果から、スパルタの国政は決して特異な物ではなく、アテナイより時間的に変化が遅かっただけで、アテナイとそれほど変わらないと結論している。175から178頁にヘイロータイがスパルタ建国時、ラコニアに居住していた原住民ではなく、負債により没落したスパルタ人であるとした説が展開されている。

  3. 太田秀通著 東地中海世界 岩波書店 1977年 ¥1900
     126から170頁にスパルタの国政の簡単な解説があり、それに続いてヘイロータイが他の古代社会の奴隷と同じものなのか、違うのかという点が考察される。最初にヘイロータイが奴隷か農奴かという議論についての研究史が考察され、中世ヨーロッパ社会の研究から表れてきた農奴という概念が古代社会には不適当であるとして、ヘイロータイのような他地域の奴隷とは異なるが自由民でもない従属民を従属農民と定義し直し、奴隷と従属農民の違いを共同体を有するかいなかという点と規定し、ヘイロータイが従属農民であると定義している。その考察過程で多数の原典からの記述があり説得力に富む。しかし、従属農民という定義は詰まる所、ヘイロータイに似た人々と言う程度に留まり、定義もヘイロータイと奴隷の違いから導いたものに見える。従って、これも農奴と同様に他地域や他時代へ適用すると農奴と同様な混乱を引き起こすのではないかと思われてならない。そこで、ヘイロータイはヘイロータイとして記述し、似た様な階層が見つかったのなら、ヘイロータイ的とでも記述すればよいのではと思えてしまう。初学者にとって、専門用語が氾濫するのはとても苦く、似た様な事態に対して専門用語と歴史上の用語の二種類が用意されるというのは更に苦しい。続いてヘイロータイと似た様な制度が紹介され、227から234頁にペロポネソス戦争後のスパルタの土地制度の崩壊情況が解説される。ここは簡潔にまとめられていて解り易い。297から300頁に前3から2世紀のアギスからナビスに至る改革があり、378から379にローマ帝国支配下で観光地化したスパルタの描写がある。

  4. 高山一十著 ギリシャ社会史研究 未来社 1970年 ¥2000
     33と34頁にスパルタとの関係を中心にしたクセノポンの簡単な伝記がある。53から57頁にクセノポンが描くスパルタ像の概要が解説され、そこから導かれるクセノポンの社会史感が解説される。362から377頁にスパルタ特有の土地制度が家の考えに基づく相続制度から発展したものとした論が展開し、378から384頁でスパルタの婚姻制度や女性の地位に纏わる史料批判が、哲学的理想像の削除と家の保持を第一にした推論により行なわれている。385から398頁でスパルタの土地制度の崩壊が人口の減少、貨幣経済の侵入の二点から考察され、399から402頁でスパルタに与えられた理想的国家像と現実の国家像の違いが指摘されてまとめとなっている。スパルタを調べる為、原典に触れる際の注意点がここにある。原典の著者、特にプラトンやアリストテレス、クセノポン等の哲学者は歴史の記述を通して自己の哲学を語る場合が多い。これに振り回されるととんでもなく非現実的な歴史を構成しかねない。そういう意味では、この本の著述も注意してみる必要がある。全ての制度は古来からの家の概念に従い発展し、家の概念を維持できなくなった状態を没落、崩壊と捉え、全体をその考えに合わせて論を進めている。

  5. 原随園著 ギリシア史研究1 創元社 1942年 ¥5
     353から404頁にリュクルゴス伝説の分析がある。リュクルゴス制度といわれる制度がどのような考えから生まれ出てきたのか、それはいつから始まったか、リュクルゴス伝説はいかにして造られたかなど、リュクルゴスに纏わる様々な分析が行われる。伝説は前4世紀の各種戦争の混乱の中、理想主義的な要望から生まれ出てきたのではないかと、推論が展開されている。

  6. 原随園著 ギリシア史研究余滴 同朋舎 1976年 ¥5800
     302から343頁に王制を中心にスパルタの建国からリュクルゴス態勢成立迄を、根拠史料を細かに示しながら論述している。基本的に王家として最初にアギス家が成立し、その後の改革と相まって民衆と結びついたエウリポン家が台頭し、二王制が成立したとしている。329頁のスパルタの階級に纏わる記述はスパルタ社会の階層を分かり易く解説してくれて助かる。スパルタの階層は、簡単に言ってスパルタ市民、ペリオイコイ、ヘイロータイだが、これのどれにも属さない階級、モタケス、ヒュポメイノス、ネオダモデイス等があり、これら階級の解説もある。そして、スパルタの体制は富裕層により形成された長老会による寡頭制とされている。ある程度、スパルタについての知識が必要だが、スパルタの国政を如何なる原典を基に構築したかが明確で、説明も分かり易い。

  7. 藤縄謙三著 歴史の父ヘロトドス 大進社 1989年 ¥4500
     316から337頁にヘロトドスのスパルタに纏わる記述の解説が掲載されている。ヘロトドスの記述だけでなく、テュルタイオスやトゥキュディデス、プルタルコス等の引用も必要に応じて用意し、ヘロトドスの記述の信憑性の確認や比較も行われている。スパルタの国制や歴史というとプルタルコスが主に使われるが、ヘロトドスから構成したスパルタ史というのも重要な史料だと思う。そういう意味で、わざわざヘロトドスの著作を読んでスパルタの記述を拾い集める労力を大幅に節約できるので、非常に助かる。それから、ドーリス人侵入に纏わる部分、国制に纏わる部分、王やヘイロータイに纏わる部分と集中的に記述を集めた箇所や、テルモピュライの玉砕原因の追究など、役に立つ情報がそれなりにある。

  8. 堀田彰著 ギリシャ社会の諸相とその価値観 法律文化社 1978年 ¥−
     113から122頁に軍事面から見たスパルタの国政と価値観が論じられている。スパルタでは最初の対アルゴス戦で重装歩兵戦術に出会い、第二次メッセニア戦争勃発頃にそれを利用した。ここからスパルタの軍事偏向型の価値観が始まり、ヘイロータイに対する政策からそれが一層伸張したといったところである。この本にはテュルタイオスの詩の訳も幾つか掲載されている。

  9. 村川堅太郎著 村川堅太郎古代史論集一 岩波書店 1986年 ¥5000
     日本における西洋古代史の今はなき大御所の論文集。全般的にギリシア全体を論じた論文が多くスパルタも各論文内に散見される。第一章では居住地区に纏わる記述があり、第二章では中心市の位置の記述がある。第四章はヘイロータイについて論じた章で、スパルタと似たような制度を持つといわれているクレタやテッサリアと比較する形で分析が行われている。研究動向もまとめてある。ヘイロータイをもっと詳しく調査する時には一度読んでいた方がよいかもしれない。

  10. 村川堅太郎著 村川堅太郎古代史論集二 岩波書店 1987年 ¥5800
     日本における西洋古代史の今はなき大御所の論文集。第六章の207から208頁にスパルタ人のヘイロータイ殺害に対する意識が紹介されている。ヘイロータイ殺しを罪としないためにエポロスはヘイロータイに宣戦布告を行うというものである。平時に殺すと罪だが戦時に敵を殺すのは罪ではないというわけである。この論文は「岩波講座 世界歴史第2巻 古代2 岩波書店 1969年」にも収録されている。第八章の257から270頁のギリシアの市民は武器を自弁したかの分析でスパルタも分析されている。結論は、たぶん自弁であろうが完全には証明できない、ということである。

  11. W.G.フォレスト著 丹籐浩二訳 スパルタ史 渓水社 1990年 ¥3000
     スパルタ建国からナビス王の時代迄(紀元前950から192年)のスパルタ史を論じている。問題は既にスパルタ史についてある程度の知識がある事を前提に書かれており、ある程度知識を付けてからでないとよくわからない。更に、実際の出来事の解説より持論の展開に重点が於かれているので、概史としては使い難い。だが、スパルタ史を構成する根拠史料を事項毎に挙げており、より深く調べたいという人にはたいへん都合がよい。邦語のスパルタ関連書籍の中では、最も広く深くスパルタの歴史全体を解説した本なので、日本におけるスパルタ史調査の必読書とも言われているようだ。

  12. H.I.マルー著 横尾壮英/飯尾都人/岩村清太訳 古代教育文化史 岩波書店 1985年 ¥7500
     25から38頁にスパルタ教育の概史と論評がある。スパルタ文化は紀元前550年を境に停滞を開始し、教育も同時に現在知られている形態へ変化したという。550年以前は文化が華やかに花開き、教育にもその成果が取り入れられていた。その根拠として前7世紀にはティルタイオス、アルクマンの詩が現れ、オリンピックの優勝者リストにも前6世紀までスパルタ人の名前が現れ、地中海各地から出土しているスパルタ製と思われる壺も前6世紀以降余り作られていないとされる。550年以降は主にプルタルコスの指摘したような軍国的教育へと変化した。550年以降のスパルタについては記述が感情的になり、主に評価の方に重点が置かれるようになる。基本的には、第二次世界大戦前後にドイツを中心にして現れたスパルタを賞賛するような説に対する反動といった感じであり、研究と言うよりは啓蒙的な色彩が強い。但し、550年を境にスパルタが大きく変化したとする見方を分かり易い論拠を上げて解説している部分は多いに参考になる。

  13. 長谷川博隆編 古典古代とパトロネジ 名古屋大学出版会 1992年 ¥5500
     古代のパトロネジ研究の論文集で、スパルタにおけるパトロネジ論の有効性が67から96頁で論じられている。パトロネジとは簡単に言って個人的な親分・子分の関係で社会が構成され、或いは国家の意思決定がなされる、とした論である。結論は、ペロポネソス戦争以後ならスパルタにもパトロネジ論を適用できる、という事である。特に古典期のスパルタの最終意志決定機関は民会であり、貴族と呼べるような人々も王以外にいなかった。故に、パトロネジ関係の形成される余地がなかったという。ペロポネソス戦争後の覇権確立期にはスパルタを頂点とするパトロネジ網が形成された可能性がある。この論文は、パトロネジ論を検討する上で不可欠な国家の意志決定過程をも分析している。ここにはスパルタの国政を知る上で役に立つ情報が多く含まれている。

  14. 秀村欣二/三浦一郎/太田秀通編 古典古代の社会と思想 岩波書店 1969年 ¥1400
     37から70頁に第一次メッセニア戦争時のスパルタの国政についての解説がある。大レトラ成立は9世紀末頃で、国政が整ったところで第1次メッセニア戦争に突入した。エポロスの成立理由や時期について、戦争による損害で貴族の力が弱まり王の権威が強まったのに対し、貴族達が王の力を弱める為に第1次メッセニア戦争中に設置したと推定している。大レトラの追加条項は民衆の反抗を抑え込むために作られたとされる。この頃の軍は未だ貴族主導型であり、後に現れる大量の兵員を必要とする重装歩兵戦術に達していなかったので、民衆の反抗は容易に抑え込めたというわけである。全体的にこの時期のスパルタが貴族主導の国家であった点が理解できる。

  15. 増田四郎/小松芳喬/高橋象平/矢口考次郎編 社会経済史大系1 弘文堂 1960年 ¥350
     29から57頁にペリオイコイについての考察がある。この論文によると、ペリオイコイはスパルタに従属する共同体だという。通説ではペリオイコイはドーリス人到来以前からラコニアに住んでいた原住民だとされているが、この論文ではスパルタ人と同じドーリス人とされている。ペリオイコイ共同体は基本的に上層の重装歩兵層と、それ以外の下層に分かたれ、上層はスパルタに結びつくことで自己の地位を守り、下層の人々は隙あらばヘイロータイと結びついて反乱を起こしかねない状態にあった。ヘイロータイが第二次メッセニア戦争や、スパルタ大地震時に反乱を起こした時にペリオイコイがこれに協力したとある。ここに出てきたペリオイコイとは下層民である。ペリオイコイの制度はスパルタ特有のものと見られているが、これも否定され、アテナイ、アルゴス、クレタ等の都市国家や解釈によってはホメロス世界のアガメムノン、メネラオスの王国にも見られるとされる。ペリオイコイの実態を論じた日本の論文は私の知る限り非常に少なく、それなりの説得力のあるので、非常に有用だ。

  16. 弓削達編 西洋史2 地中海世界 有斐閣 1979年
     61から82頁にスパルタの国制とその変化についての記述がある。分かり易く、現在主流を占めている学説の多くも紹介されている。95から100頁にスパルタ女性に纏わる考察がある。両方を合わせて読めば、スパルタ社会についての通説に基づいたイメージが掴める。最初に読むのに最適な本だし、ある程度知識が付いた後でも、概史や学説をまとめるのにちょうど良い。

  17. 三浦一郎/長谷川博隆著 世界子供の歴史2 古代ギリシャ・ローマ 第一法規出版 1984年 ¥2600
     3から21頁にスパルタの子供に纏わる記述が色々とある。まず、子殺しで、プルタルコスが子殺しと言っているのは子殺しではなく子供の健康祈願の比喩表現であるとした戦前の説を紹介している。ギリシアに理想を求めての説のように見受けられるが、今となっては肯定しようもない。産児制限についてもスパルタとアテナイで比較がなされ、両国は全く反対の方向を向いていると結論されている。スパルタは多産を奨励し、アテナイでは子が少ない方がよいとされている。それに続いてスパルタ教育の概要と背景が解説されるが、これも教育史の本の例に漏れず、プルタルコスのリュクルゴス伝から導かれた記述に終始している。57から59頁にスパルタ王クレオメネスの娘で、ペルシア戦争のテルモピライの戦いで勇名を馳せたレオニダスの妻、ゴルゴのエピソードが記述されている。ゴルゴが「スパルタではなぜ女性が支配者なのか」と言う質問に「男は女が産む物だから」と答えたエピソードはギリシア史の中では結構有名である。

  18. − 古代史講座4 学生社 1962年 ¥700
     20から58頁にスパルタがポリスとして成立過程や大レトラについての検討が行われている。大レトラの検討はその実在の可否に始まり、文法的な分析、ヘロトドスとトゥキュディデスを基にした成立時期の検討、それらの検討から導き出せるスパルタポリスの成立と検討が行われ、最終的にスパルタ・ポリスの成立は前9世紀末頃と結論される。この検討過程で、大レトラの成立もほぼ同時期とされ、スパルタは貴族主導の寡頭制国家として出発したと論じられている。スパルタ成立初期の歴史を知るのに大変有用な本である。

  19. − 古代史講座5 学生社 1961年 ¥800
     199から227頁のギリシアの軍事組織でスパルタの軍事組織も論じられている。特に207から218頁はスパルタそのものを論じている。前半は軍事組織で軍編成の話があり、スパルタ人の減少に伴いペリオイコイの割合が増大していった様子と、王の指揮権の変遷が解説される。後半でペロポネソス同盟の軍事面の解説がある。時間と共に同盟に対するスパルタの指揮権が強化されていったらしい。全体的な展望として、個人戦を主とした貴族軍が集団戦を主とする重装歩兵の登場で市民軍に変わり、大規模な傭部隊の登場でより専門化された専業軍が現れたと言うところだろう。ギリシアの軍事史の概要を掴むのによい。

  20. − 古代史講座6 学生社 1962年 ¥800
     36から42頁にスパルタのシュノイキスモス、ポリス成立についての解説がある。解説はスパルタを建国したドーリア人がラコニアに定住したとする11世紀から三部族制から五部族制へスパルタの国政が改変されたとされる八世紀前半までを解説する形で進められている。ギリシア各地にやってきたドーリア人は血縁集団を土台とした当初三部族制を取っていた。八世紀に有力者のスパルタへの集住が行われ、スパルタへ移動した人々がスパルティアタイとなり、他の都市の住民はペリオイコイとされ、両者に支配される人々がヘイロータイとして身分が確定した。その際、スパルタでは従来の血縁的な部族制を止め、住んでいる地域により地縁的な部族制を制定した。だいたいこのような流れが想定されている。この論文の簡略版として「新村祐一郎著 シュノイキスモスの意味について 歴史教育13巻4号 1965年」が書かれたようだ。

  21. − 岩波講座 世界歴史第1巻 古代1 岩波書店 1969年 ¥1000
     535から549頁にスパルタの国政を解説した章がある。まず最初にスパルタの成立から第二次メッセニア戦争に至る国政の変化を概説し、続いて長老会、民会、エポロス、王の解説が行なわれ、それら相互の関係の考察を通して国政の解説がなされる。スパルタ人の七才から三十才迄の生活を表にまとめたスパルタの生活様式表と合わせて見れば、スパルタの国政の概要を掴むのに大きな助けとなる。

  22. − 岩波講座 世界歴史第2巻 古代2 岩波書店 1969年 ¥1000
     62から63頁にスパルタ人のヘイロータイ殺害に対する意識が紹介されている。ヘイロータイ殺しを罪としないためにエポロスはヘイロータイに宣戦布告を行うという物である。平時に殺すと罪だが戦時に敵を殺すのは罪ではないというわけである。この論文は「村川堅太郎著 村川堅太郎古代史論集二 岩波書店 1987年」にも収録されている。405から409頁にアテナイとスパルタの奴隷制比較が行われている。

  23. ニコラオス・ヤルウリス/オット・シミチェク監 成田十次郎/水田徹訳 古代オリンピック 講談社 1981年 ¥9800
     古代オリンピックに纏わる様々な紹介、主に競技について記した本で、四方山話の中にスパルタの教育についての記述も46から50頁にある。前7から6世紀のアルカイック期のスパルタの教育が現在知られていたような物ではなく、音楽などに満ちた文化的な教育であったとある。289から296頁にオリンピック勝利者表があり、前8から6世紀にかけてスパルタの勝利者が目立つ。スパルタはこの期間の優勝者81人の内46人を出すというという恐るべき成果を上げている。

  24. A.H.M.Jones著 Sparta BLACKWELL 1967年 (英語)
     前7から2世紀頃のスパルタの概説書。スパルタ辞典みたいに使える本である。最初にヘイロータイ、ペリオイコイ、王、長老会、民会、エポロス等のスパルタに関する制度が主に前5から3世紀頃の状態に着目して紹介される。次に前7から2世紀に至るスパルタの概史が続く。各項目毎に参照すべき原典史料が示され、主要な根拠史料の検索に使える。巻末の付録には原典リストが掲載されているので更に使い易い。概史を例に取るとスパルタ史を構成する主要資料は以下のようになる。
     ヘロトドス(前7から5世紀)テゲア戦からペルシア戦争
     トゥキュディデス(前5世紀)ペルシア戦争からペロポネソス戦争
     クセノポン(前5から4世紀)ペロポネソス戦争末期からボイオティア戦争
     ディオドロス(前4から3世紀)神聖戦争からピュロス王戦争
     プルタルコス(前3世紀)アギスとクレオメネス王の改革
     リゥイウス(前3から2世紀)ナビス王の改革
     他に補助的な史料を使いながら概史を構成している。英語が読めなくても各項目で使われている原典史料の多くには日本語訳があるので、この本を原典史料検索用の辞書として使えば問題はないだろう。

     
  25. A.Powell/S.Hodkinson編 The Shadow of Sparta THE CLASSICAL PRESS OF WALES 1994年 (英語)
     前5から4世紀のギリシア著作物に現れるスパルタのイメージを分析した論文集。扱われている著作はエウリピデス、アリストパネス、トゥキュディデス、ヘロトドス、クセノポン、イソクラテス、プラトン、アリストテレス等。他にヘロットのイメージや、死のイメージが分析された論文がある。原典史料の中に現れるスパルタの記述を探すのにも、スパルタを表す隠語やイメージを捉えるのに使える。トゥキュディデスやヘロトドスについては彼らの著作スタイルの一端が垣間見え、エウリビデスの作品への当時の事件の影響を読みとれる等、著作者自体の研究にも使えそうである。

  26. J.K.Anderson著 Military Theory and Practice in The Age of Xenophon UNIVERSITY OF CALIFORNIA PRESS 1970年 (英語)
     前4世紀のギリシアの戦争を解説した本。前半は装備の話が主で、重装歩兵の防具や武器を古代の著作の記述に即して解説している。続いて武器の使用訓練、戦術行動の訓練や部隊編成など戦術全般の解説が行われている。後半は実際の戦闘の流れを史料の引用を多用しながら解説し、そこから読みとれる戦術様式を検討している。ここは三章に別れていて、最初の章はコリントス戦争のネメアの戦いからボイオティア戦争のテギュライの戦いまでの解説で、スパルタの迂回戦術とテーバイの重深陣の解説が主である。次は、スパルタの戦術を分析する意味でクセノポンのキュロス伝からペルシア王キュロスがリュディア王クロイソスを敗ったテュンブララの戦いの検討で、両軍とも両翼包囲を狙った機動を取り、キュロス王が勝利した。最後はレウクトラの戦いで、前章を踏まえて、両陣営の行動を分析している。変わったところではテーバイは神聖隊を全軍の後方に配置し、予備軍の考えをレウクトラの戦いで初めて導入したとしている。付論としてスパルタの軍事再編の検討が行われている。トゥキュディデスとクセノポンの間に現れる不整合をトゥキュディデスの記述ミスとし、スパルタは前四世紀には盛んに再編を行った点が指摘されている。戦いの様子やスパルタの戦術行動様式が図にまとめられており、大変分かり易い。

  27. Anton Powell編 Classical Sparta Techniques Behind Her Success UNIVERSITY OF OKLAHOMA PRESS 1988年 (英語)
     ロンドン古典協会で行われた発表のレジュメを元に作られた論文を7本収録している。何か統一したテーマがあるわけでなく、それぞれが自身の関心のあるスパルタ関連テーマを発表したという感じである。最初の論文はスパルタの笑いの意味について検討しており、二つ目は飲酒について検討している。この二つはスパルタの生活慣習についての論文といえる。3つ目は前6から5世紀にかけてのスパルタ王クレオメネスが狂っているかどうかを分析した論文だが、結論は留保している。4つ目はスパルタの人口減少について論じた論文で、富の偏在を人口減少の原因としている。5つ目はスパルタの対外宣伝についての論文で、対外宣伝を一時的なものと恒久的なものと二つに分けて検討している。6つ目はスパルタの宗教について検討した論文。7つ目はスパルタの作戦行動における欺瞞方法について論じている。従来とは異なる変わった視点からスパルタを眺めた論文集と言った感じである。

  28. Karl Christ編 Sparta WISSENSCHAFTLICHE 1986年 (独語)
    スパルタ史と言うより、スパルタ研究史の本。18世紀から1980年代に至る代表的な論文や本からの抜粋で構成されている。収録論文は全部で16本。特に重要なのは最初の「スパルタ研究とスパルタの描写」で、16世紀から現在に至るスパルタ研究の流れが概説されている。時代に応じてスパルタが如何に扱われていたかを見ることができる。68から72頁の16から20世紀迄の文献リストと473から503頁の項目別文献リストはかなり使えそうである。

  29. Manfred Clauss著 Sparta BECKSCHE 1983年 (独語)
    スパルタの概説書。全体は概史と社会の概説の2本立てとなっている。前半は前20から4世紀頃迄の概史で主に5から3世紀の記述が多い。後半の概説は社会階層、国政、その他と言ったところである。社会階層は基本的にスパルタの3階層、市民、ペリオイコイ、ヘイロータイに分けて記述しているが、これ以外のヒュポメイオネス、ネオダーモデイス、モタケス等の小グループについても市民の章で解説している。国政は王、長老会、民会、エポロス等の基本的なスパルタの国家機関と区域や部族分けや、その他の官職についての記述もある。最後の章で、共同食事や教育、軍事編成、ペロポネソス同盟の解説が並んでいる。

  30. Nigel.M.Kennell著 The Gymnasium of Virtue UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA 1995年 (英語)
     スパルタの教育について論じた本。基本的に前2世紀以降のローマ支配期のスパルタが対象となっている。スパルタの教育はリュクルゴス体制の名の下にその時々の事情に合わせて変化したもので或る点が指摘され、クセノポンからプルタルコスの記述が現れる迄の変化が概説され、続いて教育のグループ分けがクセノポンやプルタルコスを主史料にして碑文を補助史料として行われている。その後で、帝政ローマ期の祭りでの競技が教育の一環であったとして、これらの競技がどのような状態にあったかが論じられている。競技の中の一つとして鞭打ちも検討されている。碑文史料が盛んに使われ、付録として鞭打ちを記した原典史料が列挙されている。スパルタの教育を調べる上では有用な書である。

  31. D.M.MacDowell著 Spartan Law SCOTTISH ACADEMIC PRESS 1986年 (英語)
     スパルタの国制や法について検討しており、プルタルコスの記述を史実として受け入れた形で、エピダテウスの法は実在し、相続はアギス伝に書かれた通り長子相続で、アゴゲーもリュクルゴス伝に記された形で行われたとする見方を採っている。1980年代に現れてきた新説に対する従来から主張されてきた旧説の総括的な感じの本である。但し、旧来から論争の続いているリュクルゴス体制の成立年代は、テュルタイオスの詩などから前7世紀以前と推定している。史料の引用とその解釈、それを元にした検討で構成されている。検討されている項目はスパルタの法全般の問題、教育、女性、土地制度、裁判と言ったところである。

  32. Paul Cartledge著 Sparta and Lakonia RPUTLEDGE&KEGANPAUL 1979年 (英語)
     ドーリス人国家スパルタ建国以前のミケーネ時代からボイオティア戦争終結迄の前1300から362年のラコニア地方とスパルタの歴史、主にスパルタ史の研究書。基本的に時間の流れに従って章を並べ、その章が扱っている時期に起こった事件や制度、文化等の問題を原典や考古学資料で研究者の説などを検討する形で綴っている。構成は大きくは、1300から500年、500から362年で、ペルシア戦争を境界としている。ミケーネ期、アルカイック期がひとまとめという点から古典期が重視されているように考えられる。小さくは何らかの事件を境界に使って分けている。前362年以降も15章のエピローグで、後1世紀頃のローマ帝政期フラミニウス朝の時代迄が概説されている。正直言って難しい。英語なので更に難しい。しかし、何か検討すべき問題が発生した際に、それに纏わる研究や各種史料を調べるのにかなり役に立つ。スパルタの研究書としても第一級と呼ばれている書なので、スパルタ研究者を目指すなら必ず読む必要が出てくるようである。現在スパルタ史で何が問題になっているかも知ることができる。

  33. Paul Poralla著 A Prosopography of Lacedaemonians ARES PUBLISHERS 1985年 (独語)
    スパルタ人名辞典というような本で、アルファベット順に人名が並び、各人の簡単な紹介とその人物が現れる史料が紹介されている。中には誰々の娘とか、息子とか、名前が部分的に欠落したりして史料では人名が明記されていない人物についての項目もある。紹介している人物は第一版で817名に登り、第二版の付録では62名が追加されている。王の名は大文字で記され、主要な人物についても星印が付されて見やすくなっている。付録には王家の系図とスパルタの主要な官職たる海軍司令と監督官のリストがある。元のドイツ語版は1913年に出版された。この本はその第二版で第一版では漏れていた、或いは第一版出版以降に発見された史料とスパルタ人の人名が付録という形で追加されている。第二版の表題と序文は英語だが、中身の殆どは第一版そのままのドイツ語である。

  34. Stephen Hodkinson著 Property and Wealth in Classical Sparta DUCKWORTH 2000年 (英語)
     スパルタ市民の私有財産と経済的平等主義のイメージについて論じた本で、スパルタも他のポリスと同様に私有財産もあり、貧富の差も大きかった点が指摘されている。ここでも前3世紀のクレオメネスの改革時のプロパガンダが経済的平等主義のイメージに大きく寄与したようである。全体は4部からなり、最初は16から18世紀のスパルタの平等主義のイメージとこのイメージがどのように作られたかが検討され、第二部ではスパルタの税や私有財産使用に対する制限など財産制度が検討され、第三部では私有財産利用の具体的事例が紹介され、第四部でスパルタの社会的危機とスパルタの財産制度の関係が検討されている。 スパルタの経済的平等主義のイメージの修正とスパルタの私有財産制度や税、相続制度などを調べるのに最良の書である。

  35. Werner Jueger著 Gilbert Highet訳 PAIDEIA1巻 OXFORD 1945年 (英語)
     ギリシアの教育について論じた本で、スパルタについても77から98頁で論じられている。最初にクセノポンやプラトンがスパルタを理想国として論じているが、本当のスパルタ像を造る上でこれら史料は信頼性が低いとして退け、スパルタ精神を詩に表したスパルタの詩人テュルタイオスの詩こそ第一の史料とすべきとした見解が、79から87頁に示されている。続く87から98頁で、テュルタイオスの詩から読みとれるスパルタ精神が論じられている。この辺りは研究と言うよりは啓蒙的な色彩が強いように見受けられる。テュルタイオスの描く精神が国家主義的な思想として称賛され、ドーリス精神がどうとか、本当の徳とか言う言葉が並び、これがこのままゲルマニア精神とか何とかに聞こえてしまう。著者はドイツ人だし、原書が書かれた時期は1930年代の第二次世界大戦前夜だという点を考えると、何か政治的な作意を感じてしまう。それでも、戦前の古代ギリシアの教育についての研究の集約点のように見られている著作らしい。

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