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ギリシアの覇権はホモのモノ その7

アテナイの建国神話
 アテナイの建国の英雄はミノタウロス退治で有名なテセウス。彼はヘラクレスと違い罪に悩むこともないし、女を落とすのに口説くなんてまどろっこしいこともしない。欲望の赴くままに力尽くで事を進める。一言で言うと、連続婦女暴行魔である。
 テセウスもヘラクレスと同様に神の子である。母は人間でアイトラといい、父は海の神ポセイドンである(1)。しかし、母が身籠もる原因になった日、母はポセイドンとアテナイ王アイゲウスの両方と交わっていたために、テセウスが誰の子か分からなくなってしまったらしい(2)
 成人したテセウスは自分がアテナイ王の息子だと聞き、その証拠を母に示され、アテナイに行く決意を固める。更にヘラクレスの評判を聞き、自分も同じくらいの業績を建てようと思い立ち、アテナイへ行く道すがら、名うての盗賊5人と牝猪1匹を叩き殺した。アテナイに着いたところで王への手みやげにマラトンを荒らしていた牡牛を1匹絞め殺して、王に証拠を突きつけて王の子として認知して貰う(3)

ズーム
www.kfki.hu/~arthp/より

ラウレント・ラ・イール作
「テセウスとアイトラ」 1635−40年 油彩画
ブタペスト ファインアート美術館

 次ぎにしでかしたのがミノタウロス退治である。当時アテナイではミノス王の呪いにより、ミノタウロスが生きている限り9年毎に14人の少年少女を生け贄に出さなければならなかった。生け贄を出さないと日照りに襲われるのである。そこで、テセウスは生け贄に加わってミノタウロスを退治することに決めた(4)

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バーン・ジョーンズ作
「迷宮の中のテセウス」 19世紀

 クレタについたテセウスは、手始めにミノス王の娘アリアドネをレイプして自分の指示に従うように強要した(5)。アリアドネの手助けでミノタウロスを殺害し、彼女と共にクレタを脱出したテセウスはナクソス島に立ち寄り、彼女をこの島に捨ててしまう。彼にしてみれば、十分楽しんだし、ミノタウロスも殺せたし、もう彼女に用はない、と言うところだったのだろう(6)

ズーム
www.artmagick.comより

ウォーターハウス作「アリアドネ」
1898年 油彩画 個人所蔵
解説:アリアドネが寝ている隙に左上のテセウスの船が出航していく。

 テセウスは出発前、父王アイゲウスにミノタウロス倒せば白い帆を張り、失敗したら黒い帆を張って帰ると言っていたが、彼は成功したにも関わらず黒い帆を掲げて帰還した。父王はこの帆を見て、テセウスが死んだと思って落胆して自殺し、テセウスが後を継いだ(7)。やっぱり、これは王位を狙うテセウスの策略だったのだろう。相手の心理を読んだなかなかの策略である。
 テセウス登位以前、アテナイはアイゲウス、パラース、ニーソス、リュコスの四人が分割統治していたのだが、テセウスはアイゲウスの後を継ぐと反対派を一掃してアテナイを統一した。この戦いでは特にパラース一族の抵抗が大きく、テセウスは断固たる処置を執り、パラースの五〇人の子供達を皆殺しにした(8)
 アテナイを統一し、地場を固めたテセウスにヘラクレスからアマゾネス遠征のお誘いが舞い込んだ。アマゾネスの女達が抱けると喜び勇んでテセウスはヘラクレスの遠征軍に加わった。テセウスの望み通り、ヘラクレスとアマゾネスの間で戦いが起こると、彼は早速女王の妹アンティオペーをレイプしてアテナイへ連れ去った上に孕ませたのだった(9)

ズーム
http://www.perseus.tufts.edu/
より

アマゾネスと戦うテセウス
前5世紀頃のアテナイの壺絵 ロンドン 大英博物館所蔵

解説:左側がテセウスとその仲間達、右側がアマゾネス。アマゾネスに全裸で襲いかかっているのがテセウス。

 生き残ったアマゾネス達の怒りは女王を口説いた大将のヘラクレスより、女王の妹アンティオペーを暴行拉致監禁して孕ませたテセウスに激しく向かった。アマゾネス達は隣国のスキタイ人にも助力を頼み、史上希に見る大軍を率いてボスポロス海峡を渡ってトラキアを南下し、アテナイに迫った。前五世紀にペルシア軍がギリシアへ侵攻したルートとほぼ同じである(10)

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リューベンス作
「アマゾネスの戦い」 1618年 油彩画
ミュンヘン古絵画館所蔵

解説:右側がアマゾネス軍、左側がアテナイ軍。下に転がっている死体の大半がアマゾネス。

 しかし、テセウスは女にめちゃくちゃ強かった。アマゾネス・スキタイ連合軍はアテナイ軍にあっさり撃破されてしまう。アマゾネスを撃ち破りいきあがるテセウスは、クレタでミノス王が死んで息子のデウカリオンが王位についた事を期に、クレタと同盟を結ぶべくミノス王の娘で以前テセウスが捨てたアリアドネの姉パイドラと結婚する事にした。これを聞いたアンティオペーは国を滅ぼされた上に無理矢理連れてこられて子を産まされた挙げ句に、捨てられてはかなわんと、テセウスとパイドラの結婚式に僅かに残ったアマゾネス達と殴り込みをかけた。だが、返り討ちに合い、仲間達は皆殺しにされ、彼女自身はテセウスの手に掛かり無惨な最期を遂げた(11)
 政略目的で結婚したパイドラだが、ホントは別に好きな人がいたのだった。その相手とはテセウスとアンティオペーの息子ヒッポリュトス。パイドラは義理とはいえ息子に恋したことに悩み病気になり、ひょんな事からヒッポリュトスにその思いを知られてしまい、彼に激しく拒絶され、悲嘆に暮れて自殺してしまう。ヒッポリュトスもパイドラの死に心乱れ、戦車事故を起こして死んでしまう(12)
 だが、妻や息子の死に悲嘆するようなテセウスではなかった。むしろ喜んだみたいだ。早速、テセウスは次の獲物に向かって動き出した。獲物は当時わずか12才ながらもギリシア一の美女と歌われたヘレネ。ヘレネは大神ゼウスが白鳥に化けてスパルタ王テュンダレイオスの妻レダをレイプして産ませた子で(13)、後にトロイアのパリスにさらわれてトロイア戦争勃発の原因になる美女である(14)。テセウスはスパルタを奇襲攻撃し、ヘレネを誘拐した。しかし、アテナイ市民はテセウスの好色ぶりに怒りを露わにした。テセウスのことだから、アテナイ市民の娘にも手を出していたのだろう。そこで、テセウスはヘレネをアテナイ近郊のアピドナ市に隠した(15)
 ヘレネにも直ぐに飽きたのか、今度は友人の薦めで冥界一の美女、冥界の女王ペルセポネを奪うことにして、友人と共に冥界へ出かけていった。その隙にスパルタ軍がアテナイを襲い、アピドナ市に監禁されていたヘレネを救出した。アテナイ市民も好色な王はもうごめんと新たにメネステネスを王に迎えた。一方、テセウスは冥界の王ハデスの罠にはまり、友人とも共捉えられてしまうが、たまたま冥界に来ていたヘラクレスに救われる。友人を置き去りにして冥界から逃れたテセウスはアテナイに帰ったが、王位はメネステネスに奪われており、居場所もなく、アテナイから追い出されてしまう。全てを失い失意の内に亡命したテセウスだが、亡命先でも嫌われてしまい、深い穴に突き落とされて忙殺されてしまう(16)
 テセウスはひたすら肉欲に突っ走る人物だった。そのために身を滅ぼしてしまうが、ある意味幸せな人生だったのだろう。なにせ、変に悩むこともなくやりたいことやってきたんだから。テセウスは相手の心なんてどうでもよく、体さえ手に入ればそれで満足だったようだ。ここからか、アテナイでは肉の愛が尊重される様になったようだ。逆にヘラクレスは相手の心を掴もうと苦労していた。ここから、スパルタでは心の愛が尊重されたようだ。しかし、ヘラクレスもテセウス風の強引なやり方を覚えてしまうと、こればかりになってしまう。スパルタもパウサニアスの例に見る通り、肉の愛に目覚めるとこればかりになってしまう。  困ったものだ。

注釈

  1. ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」352頁(Diodorus 4.59.1)。
  2. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」168から169頁(Apollodorus 15.7)。
  3. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」170から174頁(Apollodorus 16, fr1.1-6)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」352から353頁(Diodorus 4.59)
  4. ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」355頁(Diodorus 4.61)。
  5. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」174頁(Apollodorus fr1.8)、「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」355頁(Diodorus 4.61.4)を見るにアポロドロースやディオドロスはアリアドネがテセウスに一目惚れして協力したとしているが、「エヴァ・C・クルーズ著 中務哲郎/久保忠利/下田立行訳 ファロスの王国1 岩波書店 1989年」67から68頁によると、この事件を描いたアテナイの壺絵の多くではテセウスがアリアドネをレイプしたことになっているようだ。
  6. れも、「アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」174頁(Apollodorus fr1.9)、「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」355頁(Diodorus 4.61.5)を見るにアポロドロースやディオドロスはアリアドネが酒の神デュオニソスが誘拐したとしているが、「エヴァ・C・クルーズ著 中務哲郎/久保忠利/下田立行訳 ファロスの王国1 岩波書店 1989年」68頁によると、この事件を描いたアテナイの壺絵の多くではテセウスがアリアドネを捨てたことになっている。近代でも、ウォーター・ハウスの絵に見られるとおり、テセウスがアリアドネを捨てたとする伝承の方が広く伝わっている。
  7. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」174頁(Apollodorus fr1.10)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」355頁(Diodorus 4.61.6-9)
  8. セウスのアテナイ統一については、「アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」174から175頁(Apollodorus fr1.11)。テセウス以前のアテナイの分割統治については「アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」167頁(Apollodorus 3.15.6)。
  9. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」175頁(Apollodorus fr1.16)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」317から318頁(Diodorus 4.28.1)。テセウスがレイプしたのが女王の妹アンティオペーとする説は「エヴァ・C・クルーズ著 中務哲郎/久保忠利/下田立行訳 ファロスの王国1 岩波書店 1989年」67頁による。
  10. ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」318頁(Diodorus 4.28.2)。
  11. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」176頁(Apollodorus fr1.17-18)。パイドラがアリアドネの姉というのは「エウリピデス著 松平千秋編 ギリシア悲劇3 筑摩書房 1986年 内 松平千秋訳 ヒッポリュトス」220頁(Euripides Hippolytus 340)。
  12. エウリピデス著 松平千秋編 ギリシア悲劇3 筑摩書房 1986年 内 松平千秋訳 ヒッポリュトス」200から274頁(Euripides Hippolytus)。
  13. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」148頁(Apollodorus 3.10.7)。
  14. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」181から182頁(Apollodorus fr3.1-7)。
  15. ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」356から357頁(Diodorus 4.63.1-3)。
  16. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」177から178頁(Apollodorus fr1.23-24)。

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