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ギリシアの覇権はホモのモノ その6

スパルタの建国神話
 古代ギリシアというとアテナイとスパルタがよく引き合いに出され、どちらもギリシア随一のポリスとして知られている。
 ようやく、アテナイが登場したので、両国の建国神話なぞ。やっぱり、ギリシアなんだから、ギリシア神話がないのは、クリープのないコーヒーみたいだから、ここでもギリシア神話を出してみよう。
 スパルタの建国の英雄はヘラクレス。といっても、ヘラクレスがスパルタを建国したわけじゃない。ヘラクレスの子孫達がスパルタ、アルゴス、メッセニアを建国したので、この三国は自らの祖先はヘラクレスだと自慢していた(1)。それで、建国の英雄としてヘラクレスが祀られることになった。ヘラクレスはどんな人かというと、やっぱり口説きの上手なマッチョマンというところ。前5世紀頃のとある悲劇作家の作品に「そなたは力ずくで少女を物にしたのか、それとも口説きおとしたのか?」とヘラクレスに尋ねる台詞の断片があるけど、失われた部分にある答えはやっぱり「口説きおとした」なんだろう(2)
 ヘラクレスは大神ゼウスとアルクメネーの間の子供である。ゼウスはアルクメネーの夫に化けて、更にはその夜を通常の三倍の長さに延ばしてアルクメネーを犯したのであった。それでアルクメネーが身籠もったのがヘラクレスである。そう、ヘラクレスは神の子なのだ。しかし、ゼウスの妻ヘラはゼウスの浮気を許しはしなかった。ゼウスにあたればいいものを、ヘラは浮気の果実たるヘラクレスを深く恨んだのだった。そこで、復讐第一段として赤子のヘラクレスに蛇を送ったが、蛇は返り討ちにあってしまう(3)
 青年になったヘラクレスの評判を聞いたアテナイの貴族テスピオスは彼の息子を是非とも孫に欲しいと望み、ヘラクレスを家に招いた。ヘラクレスは50日でテスピオスの娘50人全てと交わり、彼女達を身籠もらせた。だが当人は50人ではなく1人だと思っていたらしい(4)
 次ぎにミニュスの支配下にあったテーバイの解放戦争を起こし、ミニュスを撃ち破ってテーバイを解放した。テーバイ王クレオンはこれを喜び娘のメガラ姫をヘラクレスに嫁がせた(5)。たぶん、ヘラクレスのことだからメガラ姫に恋し、彼女を妻に欲しくてテーバイ解放戦争を起こしたんだろう。
 しかし、またもやヘラの復讐の魔手がヘラクレスに伸びてきた。ヘラはヘラクレスに狂気を植え付けるのに成功した。ヘラクレスは気が狂ってメガラ姫と息子達を殺してしまう(6)。ヘラクレスは落胆し、自らの罪をあがなうためにデルポイの神託所でいかな罰を受けるべきか問うた。デルポイの女神官はアルゴス王エウリュステネスが与える10の難行をこなすように命じた(7)
 そこでヘラクレスはエウリュステネスの命じるままに獅子を撲殺し、ヒュドラを叩き殺し、黄金の角を持つ鹿を捕らえ、大猪を捕まえ、ケンタウロスの大量虐殺をなしとげ、鳥の寝床を奪い、巨大牡牛を捕獲し、人食い牝馬を捕まえと、数々の動物虐待を繰り広げた(8)

ズーム
www.artmagick.comより

フランツ フォン ストック作
「ヘラクレスとヒュドラ」
1915年 油彩画 個人所有

ズーム
http://www.perseus.tufts.edu/より

ライオレと戦うヘラクレス
前6世紀頃のアテナイの壺絵
タンパ美術館所蔵

 エウリュステネスも動物虐待に飽きたのか、次は女だけの国、アマゾネスの女王の腰帯を取ってこいと命令した。アマゾネスと言えば全市民が戦いのために乳房を一つ切り落としてしまうほどに、好戦的で強力な国だった(9)。そこで、ヘラクレスはアテナイのテセウスを誘って他にも多数の軍勢を用意してアマゾネスへ向かった(10)。ヘラクレスはアマゾネスの女王ヒッポリュテーを口説き落として腰帯を貰う約束をしたが、またもやヘラの魔手が伸びてきた。ヘラはアマゾネスの一人に化けて市民にヘラクレスが女王を盗みに来たと言いふらしてアマゾネスとヘラクレスを戦いへと導いたのだった(11)。ヘラクレスはアマゾネスの名だたる12人の戦士を討ち果たし、女王も殺してしまい、アマゾネス軍を撃破して腰帯を手にした(12)

ズーム
http://www.perseus.tufts.edu/より

アマゾネスと戦うヘラクレス
前6世紀頃のアテナイの壺絵
タンパ美術館所蔵

 この後、またもや牛を捕まえ、女神の林檎を奪い、地獄のワンちゃんことケルベロスを頂き、全ての難行を成し遂げたのだった(13)
 贖罪を終えたヘラクレスは気が軽くなったせいか、またまた恋に落ちた。相手はオイカリア王エウリュトスの娘、イオレ姫である。ヘラクレスはイオレ姫を口説き落とし、エウリュトス王に息子達と弓で勝負して勝ったら結婚を認めると約束させ、見事息子達に勝利したが、エウリュトス王はヘラクレスが又狂ってメガラ姫のようにイオレ姫も殺してしまうのではと心配になり、約束を反故にしてしまう。エウリュトス王の息子の一人イーピトスはこれに怒ってヘラクレスと出ていってしまう。しかし、またまたヘラの魔手がヘラクレスを捉え、ヘラクレスは狂気に陥り、イーピトスを殺してしまう。又やってしまったと、深く悔やんだヘラクレスはまたまたデルポイに行き、どのような罪に服せばよいか問うた。デルポイの女神官は、奴隷として自分自身を売り、自分を買った主人に3年間奉公せよと命じた(14)
 ヘラクレスが自分を売りに出すと、リュディアの女王オンファレがヘラクレスとは知らずに彼を買い取った。ヘラクレスは夫もいない若い女王を侮って国を荒らしていた盗賊団や隣国を撃ち破り、オンファレ女王のハートも掴んでオンファレ女王との間に一子を儲けた(15)

ズーム
www.kfki.hu/~arthp/より

ロマニエル ジバンニ フランシスコ作
「ヘラクレスとオンファレ」
1650年 油彩画
ペテルスブルク ヘルミタージュ美術館所蔵

 無事奉公を終えたヘラクレスは何を思ったか、各地の攻略戦を開始した。手始めにトロイアを攻略し、次ぎにペロポネソス半島へ攻め寄せ、エリス、ピュロス、スパルタと有力都市を次々と攻略した。ヘラクレスは戦い続きで気が立ってたのか、スパルタ攻略後にテゲアに寄ったおり、アレウス王の娘アウゲ姫をレイプして孕ませてしまった。これじゃいかんと反省したか、次はきちんと結婚しようと、デイアネイラを口説き、結婚した(16)。しかし、この頃から戦争とレイプの味を覚えてしまったヘラクレスの暴走が始まった。次ぎに、エピュラ、ドリュオペス、ペラスギオティスを攻略し、これらの国の王の娘を次々とレイプして孕ませていった。この手があったかと逆に居直ったヘラクレスは以前結婚を反故にされたオイカリア王エウリュトスの娘イオレ姫も手に入れようと思い立ち、オイカリアを攻略し、王とその息子達を皆殺しにしてイオレ姫をレイプして連れ去ってしまう(17)

ズーム

セバルド ビーハム作
「トロイアに対して戦うヘラクレス」
1545年 シンシナティ大学所蔵

 イオレ姫はヘラクレスの妻デイアネイラの元へ送られたが、イオレ姫が送られてきた事情を聞いた彼女が心穏やかに済むはずがない。彼女はイオレ姫の境遇に同情すると共にヘラクレスの心が自分から離れてしまうのではと心配し、以前デイアネイラを犯そうとしてヘラクレスに殺されたケンタウロスのネッソスから貰った媚薬をヘラクレスに処方した。しかし、それは媚薬ではなく毒薬だった。ヘラクレスは全身が腐り、激痛に苦しみながら死んでいった。デイアネイラも騙されたことに気が付き、自殺した(18)。最後まで、罪を犯してはその贖罪にいそしむ人生だった。それに、女性を落とす場合も最初は力任せなところがあっても基本的に口説きによっていたヘラクレスも最後は強引に思いを遂げるようになり、それが元で命を落とす羽目になった。スパルタも似たような運命をたどる。それは後の話で。
 ヘラクレスが次々と産ませた子供達が、大挙してペロポネソス半島に押し寄せた事件がヘラクレイダイの帰還と呼ばれる事件で、この時ドーリア系都市国家スパルタが建国されたと言われている(19)。

ズーム
www.kfki.hu/~arthp/より

レーニ作
「デイアネイラとケンタウロスのネッソス」
1620−21年 油彩画
ルーブル美術館所蔵

注釈

  1. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」113から116頁(Apollodorus 2.8)。
  2. エヴァ・C・クルーズ著 中務哲郎/久保忠利/下田立行訳 ファロスの王国1 岩波書店 1989年」63頁
  3. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」86頁(Apollodorus 2.4.8)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」297から298頁(Diodorus 4.9)
  4. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」87から88頁(Apollodorus 2.4.10)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」318から319頁(Diodorus 4.29.3)。
  5. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」88と89頁(Apollodorus 2.4.11)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」299頁(Diodorus 4.10)。
  6. エウリピデス著 松平千秋編 ギリシア悲劇3 筑摩書房 1986年 内 川島重成/金井毅訳 ヘラクレス」517から519頁(Euripides Heracles 921-1000)。
    アポロドーロスとディオドロスは子供だけ殺したと伝えている。「アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」89頁(Apollodorus 2.4.12)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」300頁(Diodorus 4.11.1)
  7. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」89頁(Apollodorus 2.4.12)。
  8. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」89から95頁(Apollodorus 2.5)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」299から304頁(Diodorus 4.11-15)。
  9. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」95から96頁(Apollodorus 2.5.9)。
  10. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」175頁(Apollodorus fr.1.16)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」306頁(Diodorus 4.16.4)。
  11. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」96頁(Apollodorus 2.5.9)。
  12. ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」305から306頁(Diodorus 4.16)。
  13. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」97から103頁(Apollodorus 2.5)。「ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」306から316頁(Diodorus 4.17-27)。
  14. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」104頁(Apollodorus 2.6.2-3)。
  15. ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」321から322頁(Diodorus 4.31)。
  16. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」105から108頁(Apollodorus 2.6-7)。
  17. ディオドロス著 飯尾都人訳 神代地誌 龍渓書舎 1999年」327から328頁(Diodorus 4.36-37)。
  18. ソポクレス著 松平千秋編 ギリシア悲劇2 筑摩書房 1986年 内 大竹敏雄訳 トラキスの女たち」80から146頁(Sophokles Trachiniai)。
  19. アポロドーロス著 高津春繁訳 ギリシア神話 岩波書店 1953年」113から116頁(Apollodorus 2.8)。

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